yokaのblog

湖で微生物の研究してます

Symposium of Aquatic Microbial Ecology (SAME17)@エストニア

恒例の国際会議Symposium of Aquatic Microbial Ecologyに参加してきた。この会議には修士課程の頃から参加していて、ウプサラザグレブポツダムに続いて、コロナで4年空いたけど4回連続の参加になる。名前の通り水圏微生物生態学者だけで集まって、パラレルセッション無しで1週間の規模で行われるもので、大御所研究者との距離感も近く、自分が一番好きな国際会議だ。

 今回の会場はエストニアのタルトゥという場所で、大阪から東京、東京からヘルシンキに飛んで、ヘルシンキからエストニアの首都タリンにフェリーで渡り、タリンからタルトゥへは2時間のバス移動で、合計36時間の大旅行だった。今もロシア上空がとべないために北極回りで余計に4時間ほどかかっている。エストニアは青黒白の国旗がかっこよいのだけど、黒はロシアに支配されていた暗黒時代を表すとのことで、街のいたるところでウクライナの国旗がはためいていて、反ロシアの雰囲気がたちこめていた。タルトゥはエストニアでは2番目に大きい街とのことだけど、人口10万人のコンパクトな街で、街の見どころも半日あれば回れてしまうような規模だった。国の人口も100万人ちょっとで、元大統領が会場に現れるなど、小さな国ならではの演出もあった。

 去年のスイスでのISMEではコロナ陽性になったら帰れなかったので、感染を避けるためにまともに学会を楽しめなかったけど、今回はそのような制限なく、4年ぶりにコロナ前と同じ要領で国際学会に参加することができた。場所なのか時期なのか、今回は参加人数が少な目で、アメリカやアジアからの参加者がほとんどいなかったけど、ヨーロッパの淡水微生物の研究をやっているグループは大抵来ていたので、色々と情報交換ができてよかった。

 自分の中での変化として、無名だった以前はコネクションを作ろうと必死で、無理して色々なコミュニティに飛び込んで疲れていたけど、それなりに名前や研究を知ってもらえるようになって、頑張らなくても話し相手がいるような状況になったことがある。コミュニティに参加するしないを自分の意志で決める余裕ができて、プレッシャーやストレスをあまり感じずに済んだことは大きかった。あとは、今回は自分の発表内容に結構自信があったので、口頭発表で全員にそれを見せて、思いきり自分の研究をアピールできることが楽しく、気持ちよかった。論文の引用などを見ていても、やはりどうしても人として知ってもらわないと、研究としても知ってもらえないという側面を感じている。極東で一人、ヨーロッパの淡水微生物オールスターの大型プロジェクトに引けをとらないことをやっているのだぞ、というのを示せたのではないかと思う。ISMEに続いて発表が最終日だったので、最後の日まで発表のことや体調のことを考えなければならず、最後の日になるまで発表内容を踏まえた議論などができなかったのは少し残念だった。学会での発表は早ければ早いほど良いと思った。次回は2年後にバルセロナで行われる。何もなければまた参加すると思う。

 しかし改めて思うのは、ヨーロッパの人たちの体力と生活リズムが本当にクレイジーだということだ。連日日付が変わるまで飲んで、朝は9時からちゃんと発表に来て、コーヒーブレイクのたびに砂糖まみれの菓子とコーヒーをがぶがぶ飲んでべちゃくちゃ喋って、夜はまた飲みに出かける。前回同様に、連れまわされるのを警戒して行動していたのだけど、発表前日にちょっとだけご飯を一緒に食べに行くつもりが、L単位でビールが出てきて肝臓を破壊されそうになり、さらに2次会に連れていかれそうになったので「明日発表あるから」といって振り切って逃げてきた。ホテルに戻って水をがぶ飲みしてなんとか持ちこたえたけど、彼らはアルコール消化能力が3倍くらい違うので、一緒にいたらあっという間に致死量を超える。

 発表を終えた最終日は懇親会。これがまたクレイジーだった。まず会場が科学館のようなところで、物理や宇宙をテーマに色々なアトラクションあって面白かった。日本だと安全性の問題で却下されそうな刺激的なアトラクションもあって、酔っぱらった一流の研究者達がそこで子供のようにはしゃいでいた(けが人が出なくてよかった)。その後恒例のダンスパーティーが始まってお開きの23時頃まで子連れも含めてほとんどが残っていた。

そこからは公式プログラムにも書かれている"Afterparty (Duration 915 min)"が始まる。

深夜に屋外で爆音を鳴らしているバーに大集団で移動してそこでさらに飲んで踊る。別にクレイジーな人だけが最後まで残っているわけでは無くて、オーガナイザーや大御所含めシニアの研究者たちも軒並み最後まで残っていたので、これがデフォルトというか、全員がクレイジーだった。自分は23時の懇親会が終わった時点で眠くなっていたので、そこで帰るつもりだったけど、「明日は発表無いだろ?」と言われて「まぁ、本当に最後だし1杯だけ付き合うか」と「本当に1杯だけね」とついていって、そこでおごってもらって出てきた「一杯」が1Lのモヒートだった(ちなみに大きさを確認せずに注文すると3Lが出てくる仕様で、大きさを確認して命拾いした)。これを爆音で何度も聞き返さないと会話もままならないカオスな環境の中でチビチビやりながらようやく午前1時半くらいにグラスが空になったので、最後に帰る前に別のテーブルにいた集団にお別れの挨拶をしに行ったら、「じゃ、お別れにもう一杯だけ」と「いやいやさすがにもう帰る」の押し問答。結局押し負けて問答無用でショット1杯おごられてしまい、それを飲み干したのが2時過ぎ。別の人に「日本式に丁寧に挨拶してたら永久に帰れないよ」と言われ、最後まだ半分以上の人が残っていたけど、お別れの挨拶はしないでそっと抜け出して、やっとホテルに帰ることができた。

 日本ではコロナを経て飲みに行く文化がかなり減ったように思うけど、ヨーロッパは全然変わってなかった。遅くまでダラダラ飲んで仲良くなる考えは嫌いではないほうだけど、歳をとっても寿命が縮むような飲み方するのにはついていけない。そもそも体格も遺伝子も違うので、同じように行動していたら体がいくつあっても足りない。

 タリンからの直行便でチューリッヒに渡り、今日からはスイスに滞在している。チューリッヒ大との戦略的パートナーシップの支援を受けて、6年前に滞在したLimnological Stationを中心に2週間ほど研究交流をする予定。久しぶりに会う人もいるので楽しみだ。