yokaのblog

湖で微生物の研究してます

帰国しました

 2か月半の海外生活から帰ってきた。出発前は「一人で飛び込んで行って、果たして相手をしてもらえるのだろうか」という不安でいっぱいで、「迷惑をかけたり、嫌な目にあったりせずに無事に帰ってこられればそれでいいや」というくらい弱気だったのだけど、終わってみれば、当初想像できてなかったくらいに楽しくて、有意義で、成果のある滞在だった。

 それもこれも、理由はとにかく「みんな良い人だった」ということに尽きる。僕は日ごろから

『何をやるか』よりも『誰とやるか』のほうがモチベーションや成果に直結する重要な要素である

ということを考えているのだけど、今回もまさに、優秀で暖かい人達と仕事できたことで、慣れない海外生活のストレスを相殺して有り余るくらいに快適に過ごさせてもらうことができた。研究所のボス、一番お世話になったラボリーダー、ポスドク、博士・修士の学生たちまで、みんな頭が良くて親切な人ばかりで、申し訳なくなってしまうくらいに色々教えてくれたし、色々やらせてもらえた。

 もちろん海外だからといって、全てのラボがこういう雰囲気であるということはないだろうし、海外にだってブラックなラボはあるだろう。なので「海外は良い」といって一般化するつもりはないし、今回良いラボに巡り合えたのは幸運だった思う。ただ一つ、現地の色んな研究者と話していて共通して「日本と違うな」と感じたのは、学生からマネージャーまで、みんなもっと仕事(=研究)のほうを真っ直ぐ向いているな、ということだった。その点、日本の研究者は仕事以外にも様々な方向を向きながら仕事をしている(しなければいけない)から、効率が悪いのかなとも思った。でもその一方で、効率的な分業体制を回すためにテクニシャンを常に雇い続けなければならない大変さがあったり、博士課程の学生は給料を貰っている分だけ日本の学生よりもプレッシャーや義務が多かったりで、裏には難しい面もあるのだなということも感じられた。だから僕は「海外が良い、日本はダメ」という意見にはならなかった。

 今回の滞在の大きな目的の一つであった「海外で研究して生きていくことがどういうことか経験してみたい」という点については、自分なりの解を得ることができて、

海外でも全然快適に仕事ができる、だけど別に海外が日本より全てが優れているとは思わない、そして文化や食事のことを考えると、海外にずっと住むというのはなかなか難しい

という風に思った。また、

日本という国は地理的にも文化的にも想像以上に個性があって、国際的な関係の中でも、自分はそれを活かした関わり方をしていきたい

とも思うようになった。なので、今後も海外のチームと共同研究を進めていきたいと思っているけど、「海外のチームに合流して成果を出す」というより「海外のチームとは距離を保ちながら日本から独自のアプローチで貢献する」という方法のほうが、自分を活かせて面白いのではないかと感じた。なので、特に何もなければ日本でそのまま研究を続けていたいと思った。ただ今後数十年のスパンで見た時、この国に何が起こるかは誰にも分からない。そういう意味で、海外で研究することへの抵抗が無くなって選択肢を広げることができたというのはとても良かったとも思う。

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 研究成果も想像以上に得ることができた。特に滞在先のラボが開発した「高スループットFISHシステム(写真)」をフルに生かした研究をすることができて、ヨーロッパの7つの大水深湖(うち2湖は周年時系列サンプルあり)の鉛直サンプル合計350枚ものFISHフィルターを処理することができた。しかも全ての湖で仮説通りの結果が得ることができ、このデータは早速論文として投稿する話になっている。また、Zurich湖とMaggiore湖についてはメタゲノムの鉛直サンプルを得ることができて、こちらも年度内にシーケンスの結果が得られる予定だ。これらの成果を交えて、日本に帰る直前にセミナー発表もさせてもらえたのだけど、同分野の研究者が集まっているので、前提知識の説明なしにガンガン最先端の議論が出来るのは非常に楽しかったし有益だった。

 というわけで、とにかく想像以上に楽しくて有益で刺激に満ちた2か月半だった。ただこれだけ楽しかったのは「今は海外生活をできるだけ楽しもう」という意識があって、日本にいるときほどシビアに自分を追い込んでいなかったからだというのもある。ここからは博士論文の準備もしなければならないし、論文にしなければならないデータも山ほど溜まっている。もう一度日本の時間感覚に戻して、引き締めていかなければならないと思う。

 最後にもう一度、今回の滞在を支援してくれた京大教育研究振興財団に感謝したい。ここに採択されるまでにいくつかの海外渡航支援金に応募してダメだったけど、今回採択してもらえて、本当に人生が変わるほどの貴重な経験をさせてもらえた。きっちり成果を出してお礼をしたい。