yokaのblog

湖で微生物の研究してます

プロはかっこいい

NHK Worldの番組Science Viewで自分の研究を30分にわたってとりあげてもらった(1年間はオンデマンド視聴可能です↓)

番組として自分の研究を世界に発信してもらえたことももちろん嬉しかったのだけど、4日間テレビカメラに密着されて、普段見ることのない番組制作の裏側を見ることができ、自分自身にとっても面白くて貴重な経験ができた。今回はディレクターとカメラマンの2名体制で取材に来られて、まず2人で全てを回しているというのが驚きだったし、それぞれのプロとしての仕事ぶりを目の当たりにできてこちらも楽しませてもらった。ディレクターの方は専門家ではないのだけれど、こちらの研究の話をちゃんと理解して覚えていてくれて、細かく具体的な質問をしてくれる。「こんな細かいこと聞いてどうするの?」と内心思ってしまうような質問もあって、後になって聞いてみると、番組の構成をイメージしながらバックアップ的な意味も込めて聞いていたとのことで、完成した映像を見ると実際にその場面がうまく繋ぎとしてフィットしていたりして、すごいな、と素直に思った。カメラマンの方は、ディレクターの方にリードを任せつつも、要所で光の向きや時間の使い方の指示も出していて、自分は言われるがままに撮られながら、計り知れない計算が裏にあるんだろうなぁと感心しながら見ていた。

 4日間ほぼフルでカメラが回っていて、細かいことまで色々と話をして、撮影日から放送日まで1カ月ほどしかない中で、「これをいったいどうやって30分にまとめるのだろうか?」というのが、撮影後の自分のもっぱらの関心だった。自分自身も放送日まで番組をみることができなかったので、当日は「本当に伝わるような内容になっているのだろうか?」というワクワクドキドキのなかで視聴した。結果、30分の中にこれ以上ないほどの密度でうまく情報が詰め込まれていて、こんな短時間でここまで仕上げられるのはさすが、と素直に感心する内容だった。もちろん、こちらが説明したり実演したりしたことの多くがカットされてしまっていたけど、伝えたいことを伝えるための最小限の情報が、流れを犠牲にすることなくうまく収まっていて、30分ではこれがMAXだろうな、というのが理解できて、不満はなかった。

 さらに面白かったのが、放送後に改めてディレクターの方とやり取りをしている中で、「聞いて初めて気づくすごさ」があれこれ出てきたことだ。例えば、放送をみて自分が驚いたことの一つに、音声のクオリティがスマホなどで撮る動画とは比べ物にならないくらい良くて、さすがプロの機材は違うな、とか思っていたのだけど、聞いてみると実はそれだけではなくて、カメラマンの方のマイクセッティングへのこだわりがそのクオリティを生み出していたということを知った。知りたかった編集の裏話も少し聞けて、30分に編集する前に40分くらいになった段階があったこと、そこから秒刻みで取捨選択していく難しさや、あえて残した場面や選んだカットの背景、あとは「あの場面で一発でカメラのピントが合うのは実はすごい」みたいな話を教わったりして、気が付かないところに埋まっていた計り知れないプロの仕事に感心しきりだった。

 改めて「プロはかっこいいな」と思った。自分は、全然違う分野で繰り広げられる、これまでの人生で想像したこともないような「専門知識と技とこだわりの世界」を知るのが好きで、それによって交換不可能な地位を築いていく生き方に敬意と憧れを持っている。その点では研究者もプロであり、自分にとっての憧れの職業だったので、今の仕事には満足している。ちなみにさらなる憧れとして、料理人とか芸術家とか美容師とか職人みたいな、頭脳や専門知識だけでなく手技で生きていくタイプのプロに対してのリスペクトがずっとある。研究者でも、神業的な実験手技を持っている人がたまいるけど、そのようなものを自分も何か一つは欲しいなと思っているし、研究者を引退したら次は何か職人的な業界で自分を試してみたいなと時々妄想している。

 会社員時代は職業柄色々な業界の人と話すことができて、さまざまなプロの世界に触れることができていたのだけど、研究に戻ってきてからは研究者と話すことしかほぼなくなっていたので、久しぶりに全然違う業界のプロの仕事を見れて興奮したし、そういう尊敬されるプロの仕事を自分もしなければならないな、という思いを新たにした。