yokaのblog

湖で微生物の研究してます

陸水学会⇒霧島御池調査

 大分で行われた陸水学会に参加後、宮崎の御池を調査してきた。九州の数少ない大水深湖でまだ調査できていなかったので、「大分まで行くならついでに」ということで計画したのだけど、九州の大きさをなめていて、大分から宮崎まで特急で3時間半もかかって全然ついでじゃなかった。

 宮崎空港で関西から呼んだ共同研究者と学生と合流し、レンタカーで御池まで1時間。この湖が90mもあるの?というほど小さな、直径1kmほどの湖。火口湖(カルデラ湖ではない)としては日本で最も深い湖だ。

湖畔のキャンプ場のコテージに機材を展開し、温泉につかって翌日の調査に備える。

今回は水深が約90mということで、電動リール採水システムではなく、古典的なロープでの手動採水を選んだ。前回の冬季の然別湖調査で、ロープでの採水が意外と楽で、水深100m以深から何発も取るような調査でなければ、電動リールはかえって取り回しの面で不便なのではないかという感覚をもったからだ。ただし前回は足場の安定した氷の上の調査だったので、動くし流される船の上でロープ採水が吉と出るかは未知数だった。学生の頃に中禅寺湖をロープで調査した際は、風があって船が流されることもあって重たい重りをつけざるをえず、それでもロープが斜めに出てしまってメッセンジャーが上手く降りなくて採水器がなかなか閉まらず、120mからのロープ採水がもう二度とやりたくないくらいに辛かった思い出がある。それから、これまでは別の研究グループと共同で調査を行うことが多かったけど、今回は完全に自力での調査で、ロープや採水器だけでなく、CTDやその結果をタブレットで船上で閲覧するシステム、新調した送液ポンプなど、複数の新機材を投入しての調査だったので、それらが無事問題なく作動するかも不安ポイントだった。

調査日は昼にかけて風が強くなるという予報で心配したけど、出港には問題ない天候で良かった。遊覧船を貸し切って湖心に向かうのだけど、そもそも御池はあまり研究の実績がなく、最深点がどこかも正確に分かっていないし、最大水深も93m-103mくらいの開きで諸説ある。限られた情報や遊覧船の船長からの情報を頼りに一番深いと思われる場所に座標を設定。到着したらまずCTDを降ろすのだけど、船長によれば「湖底には木が沈んでいて、機材を底まで降ろすと引っかかるかもしれない」とのこと。買ったばかりのCTD(約200万円)をいきなり失うわけには行かないので、降ろすのは90mまでで止めておこうか、という話になった。CTDの電源を入れ、毎秒50cm以内の速度でロープの読みが90mになるところまで降ろす。そこからは万一着底したらすぐに引き上げられるよう、神経を集中させながら少しだけ降ろしてみたところ、91mに行かない時点でいきなり着底の感覚。不意打ちでびっくりしたけど、ひっかけてはなるまいと、急いでロープを手繰り寄せて、そのまま回収。上がってきたCTDをその場でタブレットに接続し、データを確認する。確かに90m少しのところで着底している形跡が得られていたので、少なくとも採水地点の深度は約90mということになる。で、採水深度を決めるのだけど、ここで困ったことが起こった。多くの湖では、温度躍層を境に水が表水層と深水層の2層に分かれ、さらに躍層付近にクロロフィルピークがあったり、湖底直上に低酸素水塊があったりする。なので、最低2水深、多くても4水深あれば代表的な水塊は採れる計算で準備していた。ところが御池は、サイズの割に深さがあるせいか、循環が不十分で温度躍層直下からじわじわと溶存酸素が減って、70m付近からはほぼ無酸素、さらに80m以深では湖底からの溶出と思われる電気伝導度の跳ね上がりが観察された。深水層だけでも酸素濃度や電気伝導度の違いで鉛直的に3~4水塊には分かれそうで、表水層やクロロフィルピークを加えると、6水深くらいは調査したくなるプロファイルだった。ちょっと予測していなかったパターンだったので、その場で採水深度を考えるのに時間を使ってしまった。結局、表水層、クロロフィルピーク、深水層中層(貧酸素)、深水層中下層(無酸素)の4水深に決定し、採水を開始した。

風が強くなり始めていたので、採りたい水深から優先してどんどん進めていく。幸いにも、ロープが斜めに流されていくほどの強風ではなく、重たい重りを使わなくても済んだことや、細くて伸びの少ない高級ロープを導入したこともあるのかもしれないけど、思っていたよりも全然引き上げが辛くなく、メッセンジャーでの採水器のクローズも一発でバンバン決まって、拍子抜けするくらい順調に進んだ。実はこの調査のために筋トレをしていたくらい身構えていたので、むしろ物足りなくて、最後はあえて1キャスト追加して、ロープ手繰り上げ欲を満たすほどだった。何より、同行した2名がてきぱきと動いてくれて、自分は記録や段取りに集中することができたので、非常に助かったし楽だった。調査時間も最大3時間を予定していたけどなんと1時間半であっけなく終わってしまった。

あまりにも順調に作業が終わって、宿も湖畔ですぐ近くだったので、ゆっくり昼食を食べてから余裕をもって濾過作業をスタートすることができた。新調した送液ポンプも問題なく稼働してくれて、3人で役割分担してどんどん作業が進み、最後の水の濾過が終わったのがなんと4時ごろでまだ明るい時間。しかも途中からは濾過隊と片付け隊に分かれて作業していたので、濾過が終わった時点で片付けもほぼ終わっているという有様で、夜は温泉と焼肉で調査の無事を祝う余裕すらあった。

これまでの調査では、日が暮れてからが作業の本番で、一人さみしく延々と濾過をし続け、日付が変わるころにようやく終わってコンビニ飯にありつけて、そこから眠気をこらえて気合で洗い物をするのが定番だったので、それと比べると本当に天国のような調査だった。それに、複数人で作業できて余裕ができたことで、いつもよりも作業や記録を丁寧にすることができたので、仕事の量だけでなく、質という意味でも複数人で役割分担するメリットを感じた。

 翌日の機材梱包や、京都に戻ってからの洗い物も含めて、一緒に行った共同研究者と学生が本当によく動いてくれて助かった。これまでで最も効率的で、正確で、楽な調査になったと思う。新機材も問題なく稼働して、そのメリットや改善点も色々と見えたし、サンプル以外にも色々と収穫のあった、実り多い素晴らしい調査だった。