yokaのblog

湖で微生物の研究してます

琵琶湖・猪苗代湖・中禅寺湖・洞爺湖、国際共同調査

 9月20日から10月4日にかけ、チェコ科学アカデミーのMichaela Salcher博士らの研究グループが来日し、琵琶湖・猪苗代湖中禅寺湖洞爺湖の共同調査を行った。

 Michiのことを最初に知ったのは、10年以上前の学部生の頃だ。当時卒業研究で行っていた、FISH法を駆使した淡水細菌の多様性の研究で、関連文献を調べているとやたらと名前が出てくることからその存在を知るようになった。その頃Michiは学位をとりたてのタイミングだったのだけど、すでに淡水微生物生態学をリードする成果を次々と出していた。当時は面識なく、単に論文著者の名前として存在する人物に過ぎなかった。その後、国際学会のポスター発表で直接話をするチャンスがあって、顔見知りになった。後から聞いた話によれば、自分の論文の査読を引き受けてくれたことがあったらしく、そのこともこちらの存在を知ってもらうきっかけになったらしい。転機になったのは博士課程在学中に当時チューリッヒ大にいたMichiの研究室を2か月半訪問する機会を得たことだ。以降、共同研究者の関係になり、Michiがチェコに移った後も、コロナ前までは年に一度はヨーロッパを訪問していて、これまでに4本の共著論文を出すに至っている。

 そして今回、彼らがグラントを獲得したプロジェクトの一環で、日本の深い湖の微生物サンプルを採りたいという話で声をかけてもらって、受け入れを担当することになった。学部生時代には論文上の存在でしかなかった憧れの研究者を、まさか10年後に自分が日本に招くことになるとは想像していなかった。共同研究者になってからも、いつか日本に呼びたいと思いながら、コロナなどもあってなかなかその機会が巡ってこなかったので、今回の訪問は自分の研究者人生の中でも一大イベントで、とにかく失敗なく調査を完遂しつつ、日本滞在を楽しんでもらいたい一心でとりかかった。

 琵琶湖に加えて、東北・北海道3つの湖を2週間で回り、深水層(80-150 m)の大量採水(40L)を含むサンプリングとそのサンプル処理まで終えるというタイトな計画で、傭船業者の空き状況、悪天候に備えた予備日、新幹線の接続、ヤマトの配達の所要日数等を考慮に入れて日程を組みながら、宿泊とレンタカーを手配して、一日も余裕の無いギチギチのスケジュールが出来上がった。琵琶湖で調査を行ってから新幹線で那須塩原に移動し、そこを拠点に猪苗代湖中禅寺湖を二日連続で調査した後に、新幹線で函館、函館からさらに車で洞爺まで移動し、洞爺湖を調査したら逆のルートで函館から京都まで新幹線で帰るという、3000km以上を陸路で移動するクレイジーな旅程だった。ちなみに、支笏湖・十和田湖調査で青函連絡船に乗ったので、これで北海道へは飛行機、カーフェリー、鉄道の全ての手段で渡ったことになる。

 然別湖で起こったような深層採水システムや濾過システムの故障が起こらないか、予備日で吸収しきれないほど天気が悪い日が続いたらどうしようか、冷蔵・冷凍サンプルや調査機材の配達が予定通りに届かなかったらどうしようか、時間管理をミスって予定通りの新幹線に乗れなかったらどうしようか・・・自分にとってもここまでタイトな調査計画は初めてな中で、自分しかリーダーとして音頭をとれる人がいないという状況で、とにかくドキドキワクワクな2週間だった。案の定、2週連続の台風接近で予備日の半分を消化する状況になったけど、調査が中止になる事態は避けられ、採水システムもトラブルなく、ロジスティクスも全て計画通りに動いてくれて、致命的な失点なく調査を終えることができた。最後、洞爺湖の水を無事に採り終えた後は、安心感で一気に疲れが出て、しばらく動けなかった。

 調査の無事に加えて、彼らをビッグゲストとしてもてなして、関係を深めつつ、日本での経験に満足して帰ってもらうというのも今回の大きな目標だった。こちらも、概ね達成できたと思う。色々な日本食にチャレンジしたいという要望に応えて、連日全力で美味しい店を探して、美味しいものを食べまくった。自然を見たいという要望に応えて、持てる知識と情報と時間を総動員して、海や森や火山を案内してまわった。これ以上の旅は無かったのではないかと思うし、自分自身もとても楽しく充実した2週間だった。

 今回得たサンプルから良い研究成果が得られることが楽しみなのはもちろん、それ以上に、一流の研究者達が日本に来てくれて、友人として楽しい時間を一緒に過ごしてくれたということ、それに応えてほぼ満点の計画ともてなしができたということに、この上ない満足感と達成感が得られた経験となった。先日の然別湖の調査に続いて、「こういうことがやりたかったから研究者になったんだよな」というのを思い出させてくれる、とても楽しい時間だった。