yokaのblog

湖で微生物の研究してます

然別湖調査

 北海道の然別湖に調査に行ってきた。琵琶湖以外の湖で調査をするのは久しぶりで、今月後半に予定している中禅寺・猪苗代・洞爺湖調査のリハーサル的位置づけの調査でもあった。然別湖は最大水深約98m、標高810mで、自分が研究対象にしている大水深淡水湖(有酸素深水層を有する中~貧栄養の淡水湖)の中では、国内では最も寒い場所に存在する湖だ。北海道の大水深淡水湖では、これまで洞爺・支笏・屈斜路・摩周湖の微生物組成を明らかにしてきたけれど、然別湖はそれらの湖の中間に位置しており系統地理的な観点からもまだ網羅できていないエリアにあるし、完全結氷する2回循環湖という意味でもまだきちんとカバーできていないジャンルの湖だ。今回、共同研究者の調査に誘っていただき採水のチャンスを得た。

 1発目の採水から採水器のトラブルに見舞われ、調査が中断するハプニングがあり多方面に迷惑をかけてしまった。深層の水を採るための電動リールを活用したシステムがきちんと活躍してくれたのが救いだった。同行した研究者にも助けていただいて、何とか予定通りの採水をすることができた。

宿に戻ってからは濾過作業。極限までシンプル化し、大量の細菌サンプルを採集することに特化したコンパクトなシステムにした。然別湖は貧栄養湖で当日の透明度も10mを超えていたけど、思っていたよりも生物量が多かったようで、想定していたよりも早くフィルターが目詰まりしてしまった。

翌日は他の研究者の調査に同行し、船の操船を担当。船舶免許が久しぶりに活躍した。

調査の空き時間に山の方に散歩に行ってみたら、ナキウサギに遭遇する幸運にも恵まれた。

改めて、野外調査は楽しいなと思ったし、そもそも自然の中でこうやって仕事をやりたいから研究者になったんだよな、というのを思い出させてくれる出張だった。湖の調査では、海洋の調査のように装備が充実した船と熟練船員のサポートが使えるわけでは無く、遠隔地の不便な状況の中で、あらゆるものを自分達で手配し、あらゆる事態を想定した準備をしなくてはならない。今回は、自分よりもはるかに湖調査の経験がある猛者達に同行しての調査だったので、湖の状況やメンバーの要望に応じて常にスケジュールやロジスティクスを組みなおしながら進める、その準備の徹底ぶりと柔軟かつ効率な進行にとても感心した。機材の破損や不調が起こると、ドラえもんのごとくすぐに道具が出てきてバックアップ体制がとられる点や、船のエンジンの不調にすらその場にある道具と知識でなんとか対応してしまう場面もあったりして、そのサバイバル能力の高さに強い憧れを感じた。久しぶりに会う人も、初めて会う人もいたけど、地学・物理・化学・生物と分野は異なっても、全員が湖を対象にしていて、湖を愛している。初日から昼夜問わずひたすら湖の話で盛り上がって、ものすごく楽しかった。陸水研究の面白さを改めて感じたとともに、自分もこの文化を引き継ぐ一員になりたいと思った。

 人生も研究も、険しくて先が見えない「冒険」パートこそがその醍醐味だと思っている。湖調査はまさに「冒険」であり、その苦労の結晶として得られた自分だけのサンプルからは、世界で自分が初めて知ると断言できる結果が得られる。久しぶりに冒険心が満たされて満足したとともに、今回得られたサンプルの解析結果を見るのがとても楽しみだ。今月後半の調査もものすごい冒険になる予定で、とてもワクワクドキドキしている。