現在採択いただいているJST創発的研究支援事業の中で、大学院生(修士・博士課程)をRAとして雇用(月額上限20万円)できる枠があり、ただいま2027年度春から研究に参画してくれる学生を募集しています。
RAとして給与を出すからには創発プロジェクトに関連する研究を進めてもらう必要がありますが、簡単に言うと、湖の微生物の大規模ゲノムデータを使って、環境中の微生物の多様性・生態や、ゲノム・遺伝子の進化的背景を明らかにする、という研究で、大規模データが出発地点にありさえすれば、テーマはかなり幅広く設定が可能です。
「ビッグデータを扱う生物学をやりたい」という方にはかなりマッチする研究内容ではないかなと思っています。対象の生物は細菌とウイルスがメインですが、真核微生物も一部扱っています。なので、「環境中のウイルスに興味がある」「植物プランクトンが好き」といった生物起点の興味で、ゲノムデータを使って切り込みたいという方にもお勧めできます。1種類の生物や遺伝子をとことん深堀りするスタイルでも、多種横断的データを俯瞰的に眺めて新発見を炙り出すスタイルでも、どちらでも研究できます。もちろん、「高解像度データを使って集団遺伝学的な研究をしたい」とか「湖間の比較で環境中の遺伝子の動態や系譜を紐解きたい」とか「時系列データでウイルス防御システムの進化を捉えたい」とか「環境微生物ゲノムの可塑性を調べあげて種の境界の定義に挑戦したい」みたいな、具体的な興味で来てくださる方も歓迎です(あんまりいないと思いますが)。
対象の環境については「湖」という縛りがありますが、必ずしも湖に興味が無くても良くて、むしろ「湖」という環境の特性を活かすことで、より一般的な問いに答えられないかというモチベーションで研究しています。例えば天然の閉鎖的生態系である湖を、それぞれ「進化実験のフラスコ」のように捉え、互いに対象区(control)や反復(replicate)とみなして相違点や類似点を炙り出すことで、近年に起こった進化や遺伝的ボトルネックを容易に検出できます。また湖は季節的変化が激しいのに再現的であるというのもポイントで、環境変化に対するゲノムや遺伝子の応答をクリアに観察できるという面白さもあります。簡単に言うと、他の環境(海や土壌など)よりも生物学的なパターンが明瞭に観察されやすいために、先導的な研究に取り組みやすい、というのが、湖を対象にする面白さであり、強みであると思っています。そうした点に興味をもっていただけるなら、湖が好きである必要は必ずしもないかなと思います(こう言う私ももともとは海の研究をしたいと思っていました)。
ただやはり、大自然の中で苦労して自分の手で採ってきた微生物サンプルから研究をスタートさせられるというのは、この研究の醍醐味だと思っていますので、できれば湖の調査や、得られたサンプルからの核酸抽出やシーケンス解析も経験してもらいたいなと思っています。最近の調査の様子については以下の記事を参考にしてください。湖の調査は信じられないほど楽しいです。
対象とする「ビッグデータ」の詳細はここには書ききれないですが、日本各地の湖で採り進めているオリジナルの微生物メタゲノムデータがメインで、一部の湖ではロングリードデータやメタトランスクリプトームデータもあります。さらに国際共同研究や公共データベースから取得した、世界各地の湖から得られた同様のデータとも横断的解析が可能な状態に整備してあります。さらにメインフィールドとしている琵琶湖では、8年以上にわたる長期時系列メタゲノムや、シングルセルゲノム解析のデータなどもあります。こうして多様なサンプルから多様な技術で得られた大規模湖環境ゲノム情報を、様々な切り口で解析をして論文を発表してきました。以下にその一部を示します。
まだ得られたデータのほんの一部しか発表できておらず、まだまだ無数に切れそうな切り口があるのですが、とても解析しきれないので、ぜひ創発RAの枠組みで、一緒に研究しませんか、というのがこのお誘いです。
研究環境はトップクラスのものが揃っています。まず、京都大学化学研究所のスパコンシステムの潤沢な計算資源が利用可能です。スパコンには豊富かつ最新のバイオインフォマティクスツールやデータベースが維持管理されていて、サーバーのメンテを自前で行っている研究室も多いことを考えると、とても恵まれた環境かと思います。湖の調査やデータの利用に関しては、国内外のネットワークを使った機動的な研究が可能で、国内では主要な大水深淡水湖はほぼカバーしていて、特に琵琶湖では京大生態研との共同研究にてちょうど代変わりして2026年度進水となる最新の調査船を利用して自由度高く調査ができます。

▲ 研究対象としている国内の大水深淡水湖
国外では世界中の湖の微生物調査を進めているヨーロッパの研究者らと主に共同研究進めていて、サンプルやデータを共有しながら国内外の湖の比較解析に取り組んでいます。相互訪問や共同調査も頻繁に行っていて、日本を拠点にしながらも、日本代表あるいは日本支部のような形で国際的な研究の枠組みに積極的に参画しています。この点では、国際的交流に積極的で、英語を使いたい、海外に行きたい、というモチベーションが強い方が望ましいです。
私自身は学生時代から一貫して湖の微生物生態学に取り組んできたので、湖に生息する微生物やプランクトンについて熟知しており、生物の特性を踏まえた解析や解釈のアドバイスができます。プログラミングやバイオインフォマティクス解析は勉強してもらうことになりますが、私自身も実験系出身でインフォ解析については学生時代に独学で苦労しながらここまでたどり着いた一人なので、基礎的なことに関してはつまづきポイントも踏まえながら指導できると思います。ただ、どんどん新技術や新ツールが登場する進歩の早い分野なので、「言われたことをやる」とか「教えてもらう」という姿勢ではなく、自分で論文をどんどん読んで新しいやり方に挑戦していくような気概がないと、良い研究にするのは難しいかなと思います。
ここまで大規模データ解析の話ばかりしてきましたが、湖の微生物の分離培養株を用いた実証的研究にも力を入れており、まだ論文発表は無いものの、科研費等の支援を受けて現在進めている仕事がいくつかあります。「ドライで得られた仮説をウェットで検証する」というのが一番かっこいいスタイルだと思っていて、そのような進め方に賛同いただけるなら、分離株を利用した研究まで取り組める培養環境や実験環境も整っています。是非挑戦してほしいです。
ちなみに、私はまだPIではないので、創発RAとして来ていただくことになる場合は、私の所属する微生物生態進化学分科(緒方研)を受入先として出願し、京都大学理学研究科の入試を突破してもらう必要があります。
研究室全体では湖以外の研究をしている研究者や学生が多数派ですが、ほぼ全員が微生物やウイルスのバイオインフォマティクス解析に取り組んでいるという点では、知識や技術はほぼ共通なので、その点では学生間や教員とも情報交換しやすい環境だと思います。あとはこのブログにも何度か書いていますが、所属先を選ぶときに一番大事なのは「何をやるか」よりも「誰とやるか」だと思っています。研究室に限らず、サークル・バイト先・会社、どこでもそうですが、必ず対面で会って現場を見て、「この人たちと長く一緒に働けそうか」というのを一番の判断基準にしてもらいたいと思っています。それは、教員の立場から学生をみる場合も同じです。ですので、ご興味を持っていただけたとしても、必ず一度は研究室に見学に来て見てもらってから決めていただきたいです。なお、修士で来られる場合は、創発RA支援の規定により、博士課程まで進学する前提での支援となるので、その点はご承知おきください。また当然ですが、創発RAの枠に収まらない人数や研究内容となる場合は支援をお約束できないこと、大学院入試は通常通りに勉強して突破していただく必要があることもご理解下さい。あと、私自身もそうですが、会社員から博士課程に編入学して研究したい方も歓迎です。学問はもっと気軽に志せるものであって欲しいと思っています。
というわけで、ご興味のある方のご連絡をお待ちしております!質問や見学希望などあれば、まずはメールでコンタクトいただければと思います。修士で来られるか博士で来られるかにもよりますが、院試の出願時期に余裕を持ってご連絡ください。