yokaのblog

湖で微生物の研究してます

チェコ・ドイツ出張

 2週間弱のヨーロッパ出張から帰ってきた。まずは毎年訪れているチェコ南部のČeské BudějoviceのInstitute of Hydrobiologyを訪問。日本からチェコの直行便はなく、乗り継いでプラハまでたどり着いたとしてもそこから3時間以上の電車旅が待っている。なので今回は羽田からウィーンへの直行便を使って、オーストリアから電車で4時間かけてチェコに入るルートを使った。羽田を深夜発で寝てれば朝に着くし、飛行機に1回しか乗らなくてよいというのはとても楽だった。東京発の場合は次回以降もこのルートを使おうと思う。

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 チェコでは淡水細菌・ウイルスの単離やメタゲノムをやっているチームと近況の情報交換と共同研究の打ち合わせ。この分野の研究では世界をリードしているグループなので、最新の研究の状況を教えてもらったり、実験設備などを見せてもらえたりするのは非常に刺激になるしありがたい。

 ただ一つ、いつもヨーロッパに来ると辛いのが、生活のペースが全然日本と違うということ。あまり時間通りに物事を進める感じではなく、一緒に行動しているとその場の思い付きでどんどんスケジュールが変わっていくので、とにかく先が読めなくて疲れる。特に食事のペースが全然違うのが辛くて、3食ちゃんと食べる、という習慣があまりなく、夜は食事はあまりせずに酒だけダラダラと夜中まで(というか朝まで)飲んで、翌朝はブランチ、みたいなのを平気でやるので、時差ボケや気候の違いへの適応のためにバッファーとして温存しておいた体力があっという間に削られる。なので疲れているときはノリの悪いやつだと思われてもいいから参加しない/途中で帰るキャラに徹するようにしていた。

 滞在中にちょうど街で祭をやっていたのだけど、短い夏を爆発的に楽しんでいる感じが日本では見られない光景でとても印象に残った。(ちなみにこの祭も朝3時まで飲んだ翌日に急遽行くことになって体力的に辛かった)

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 チェコでの滞在を終えた後は、ドイツのポツダムで開かれる学会、Symposium of Aquatic Microbial Ecology (SAME) に参加するために、チェコの研究者らと電車で移動。新幹線なら3時間くらいの距離だけど、普通列車しかないので、プラハドレスデン・ベルリンと経由して、7時間の移動。ドイツチェコ国境あたりのエルベ川沿いの車窓がとてもよかった。

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 ポツダムに着くなりいきなりトラブルが発生。6時少し過ぎてホテルに到着したら、「6時までに来なかったから予約が無効になって別の人が部屋に泊まることになったので空室がない」ということを言われた。確かに予約のメールをよく見たら小さい字で「6時を過ぎるときは電話してね」と書いてあったのだけど、それなりにホテルとメールでやりとりしたうえで数か月前にとった日本からの予約をそんな簡単にキャンセルされるとは思わないし、そもそも海外でそんな簡単に電話できないし・・・といろいろ文句はあって少し不満を言ったけど、無いものは無いので、結局最初の1日だけ近所のホテルのスイートルームに1泊200ユーロで泊まるハメになってしまった・・・せっかくなので広い風呂と二つのトイレを楽しんだ。

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で、翌日から学会に参加。立派な宮殿がいくつも建っている公園を毎朝30分歩きながらホテルから会場まで移動していた。

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 今回の発表は口頭発表。国外の学会で口頭発表に採択されたのは初めてだったので、スライドが無くても発表内容を暗唱できるくらいには準備していった。おかげで、発表自体はほとんど緊張することなく理想の内容でできたのは良かった。一方で、懸念だったのが質疑応答。自分の発表の番が来るまでにあった発表での質疑応答を聞く限りは、7割くらいは自分でも理解できそうな内容だったけど、まさかの自分の番で質問してきた人が残りの3割の理解できないほうだった。質問してくれた人は知っている人で、アメリカの研究者だったのだけど、前から「この人の英語は速くて分かりにくいな」と思っていた人だった。さらに会場ではマイクの音がこもっていた事もあって、ほぼ何を言っているのか全く聞き取れず、質問をもう一度繰り返してもらうように伝えたけど、それでも何を言っているのかほぼ全く分からなかったので、「すみませんが聞き取れないので後で直接議論しましょう」と言うことしかできず、そのまま質疑応答の時間が終了になってしまった。後にも先にもこのような応答をした発表者はいなくて、これは自分にとってとても悔しいし恥ずかしい経験になってしまった(結局、質問してくれた人とはその後直接話をして議論ができた)。

 英語の聞き取りに関しては、非ネイティブのはっきり発音してくれる人のものに関しては問題なく聞き取れるのだけど、ネイティブが単語を繋げて発音を省略して素早くしゃべるのは簡単な単語の組み合わせであってもなかなか聞き取れなくて苦手だ。僕は英語が嫌いで仕事で必要なので仕方なく使っているという立場なので、「わざわざそっちの言葉を使って話してやっているのだから、そっちもわかりやすい英語を喋れよ」と思ってしまうのだけど、ヨーロッパの非ネイティブのほぼ全員がネイティブレベルの英語を理解しているし、非ネイティブの中でも英語に慣れた人はネイティブのような分かりにくい発音をする人がいるので、僕がそれを理解できるようにならなければならないということなのだろう。感覚的には「英語のニュースが理解できる程度ではダメで、英語の映画とかドラマを字幕なしでほぼ理解できるレベルに達しないとダメなのだ」と今回思った。研究のためにそんなに英語を勉強しないといけないのか、と思ってしまうけど、やらなければならないのだと思った。つくづく、英語を勉強しなくてよいネイティブは楽でいいなと思う。世界が日本語で研究しなければならなくなったら、僕の生産性は格段に上がるだろうなと思う。

 今回は自分の発表が学会初日だったので、早々に肩の荷が下りたのは良かった。嬉しかったのは、僕がずっと注目してきた「深い湖の微生物生態系」を研究する人が増えてきて、発表が終わった後に「面白かった」「論文いつも読んでます」みたいな感じで声をかけてきてくれた人がいた事だ。すでに僕が知っていた動きもあったけれど、マークしていなかった湖でかなり研究が進められているという情報もあった。日本にいると、このテーマに注目しているのはほぼ僕一人なので、その面白さを説明するのに苦労することも多くて、自信を無くしそうになることもあるけど、世界に視野を広げれば、同じ興味で研究している人が両手で数えるほどにはいる。国際学会に出てこれを知れることは、自分にとってとてもモチベーションになるし、刺激にもなる。

 一方で感じたのが、「あっという間に抜かされるのではないか」という危機感だ。深い湖の微生物研究にいち早く目を付けて論文をいくつか出していることで、今のところは僕の仕事も世界をリードする研究の一角には位置づけられるのではないかと思う。だけど、他の湖で進められている研究の話を聞くと、僕がやろうとしていたことがすでにかなり進められていたり、より先進的なコンセプトやアプローチで研究しているケースもあって、資金も人材も機材も豊富な海外のチームに対して、日本で一人で戦っていても全然歯が立たないなということを感じた。

 幸いにも、地理的な要素が差別化要因になる研究内容なので、「日本の湖にアクセスできる」という点については、僕の研究の優位性がゆらぐことは無いだろう。だけど、それだけが優位性になってしまっては悲しい。早いところポジションをとって、大きな研究資金を得て、人材や機材をそろえて海外の研究と伍する体制にしたいと思う。ただ現実的にはそれはまだまだ先の話で、しばらくは一人で研究をしなければならない状況が続くだろう。良いなと思ったのは、自分を含めてどこの研究チームも「メタゲノムデータの情報量がすごすぎて自分たちでは解析しきれない」という悩みを抱えていて、データの共有や共同研究に前向きなことだ。この点では、他の研究分野よりも、競争よりも協働が生まれやすい状況にあると思う。今のところ「こことここは仲が悪い」という話もあまり(ゼロではないけど)聞かないし、個人的にはそういった人間関係を気にしながら人付き合いを広げていくのは嫌だし面倒なので、この状況が続くとよいなと思う。具体的な共同研究の話も進んでいて、「大水深湖研究日本支部」として、海外のチームとお互いにうまく棲み分けながら、この分野の研究を一緒に盛り上げていけるとよいなと思った。

 ちなみに海外での学会で恒例の爆音ダンスパーティーも健在だった。今回はクルーズパーティーだったので、夜12時に帰港するまでは逃げられないという特典付きだった。

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 最終日はこれまた海外出張で恒例となったランニング兼観光。ヨーロッパは公園だらけで信号無しでどこまでも永遠に走れて気持ちいい。ポツダム市内にはあちこちに遺跡が残されている。

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ポツダム会談が行われた宮殿を見に13キロほど走った。

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出張が続くので体調管理最優先で気を付けてきたけど、帰国早々体調が思わしくない。そんな中、これから3泊4日で山梨の微生物生態学会に参加してきます・・・