筆頭著者での新作が久しぶりにISME Communicationsから出版された。この論文は昨年度までの3年間もらっていた科研費若手のメインとなる研究成果だ。琵琶湖ではこれまでロングリードを含めて散々メタゲノムをやってきて、細菌もそれに感染するウイルスについても、ゲノム情報は網羅的に得られているのだけど、肝心の「誰が誰に感染するのか?」という点に関しては、ゲノム情報だけから予測するのには限界があって、大多数のウイルスが「ゲノムだけ分かっていて宿主が分からない」という状況になっていた。このメタゲノムの限界に新たな技術で挑戦する、というのが「環境中のウイルスと細菌のゲノムをつなぐ」と題したこの科研費の目的で、もともとはMetaHiC技術を使って宿主ゲノムと感染しているウイルスゲノムの物理的接触を検出することでウイルスと宿主の紐づけを行う計画だった。ただ新たなサンプルにMetaHiCを適用するにあたっては実験条件の検討から始めなければならず、結果が出るまでに手数と時間がかかりそうなのが壁だった。そんな時にとある学会で、細菌のシングルセルゲノム解析の結果から感染しているウイルスゲノムを検出するという早稲田大竹山研からの研究発表に出会い、この技術のほうが実現可能性も解像度も高く目標を達成できそうだということで、共同研究させてもらえないかと持ち掛けたのが本研究の始まりだった。共同研究の計画が固まったが2022年のはじめごろ、朝採れの琵琶湖の水をもって新幹線で早稲田のラボにお邪魔して・・・とやっていたのが2022年夏から2023年冬の話、2023年の初夏にはデータ解析もストーリーも概ね固まっていて順調に進んでいたのだけど、ここからが長かった。
苦労話は先の記事でも色々と書いたけど、とにかく論文を書くための、まとまって集中できる時間がなかなか確保できず、休日はできるだけ使わないようにしよう・・・と思いながら、終わってみれば結局いつものように、家庭の許可を得て休日や夜中に研究室に来て一気に書き進めた箇所がほとんどになっていた。ようやく初稿ができたのが2024年の5月、そこから共著者にコメントをもらって、追加解析などを加え、最終稿ができたのが7月。ここからPNAS->ISME Jと2発のエディターリジェクトをくらったのだけど、ISME Jに落とされたのは納得がいかず、rebuttalしたりして時間を浪費。rebuttalは結局失敗したけど、一応違うエディターがもう一度目を通してくれるところまではやってくれたようで、誠意は感じた。で、transferされたISME Commnで査読に回ったのが8月後半。10月に査読がもどってきたのだけど、査読者3名中1名がとてもネガティブ(しかも攻撃的)で、再投稿可のリジェクトを食らう。以前も書いたけど、自分は結構厳密に分析して厳密な文章でちゃんと論文を書いている方だと思っていて、査読にさえ回ればあとは高評価が得られてすんなりいくケースが多かった。今回も3名中2名の査読者は好意的で、ネガティブだった1名も、内容を否定というよりは、内容をきちんと理解してもらえず誤解に基づいて攻撃的なコメントを並べているような印象だった。ので、解析自体は直すところはほとんどなくて、「こちらの書き方が悪かったからきちんと理解してもらえるように書き直しました」という体で、負荷的にはそこまで大掛かり修正ではなかったのだけど、そうはいっても文章を全面的に入れ替え・書き換えるレベルだったので、フル集中できる時間がまとまって必要だった。ところが先日書いたように、ここで出張ラッシュと重なってしまって、論文にまったく手が付かない状況が3か月くらい続いて、年末年始の閑散期なってようやく手を付けられ共著者に回覧、何とか2月に再投稿。そこからさらに2か月後の4月に査読が戻ってきて、丁寧な対応が功を奏し、問題の査読者を概ね納得させることに成功。あとは微修正でエディター判断で即アクセプトかと思いきや、意外に3週間ほどかかって、その間に申請書や報告書の締め切りがたくさんあったので、業績に載せたかったのに載せられず、もしかしてもう一ラウンドあるのか・・・?とびくびくしていたところでアクセプトのメール。初稿からほぼ1年、データが揃ってからは約2年経っていて、とても長い道のりだった。
研究の内容としては、当初の目論見通り、細菌のシングルセルゲノムと一緒にシーケンスされたウイルスゲノムを検出し、多数のウイルスの宿主を特定できたというものなのだけど、本研究のウリは、琵琶湖の過去のメタゲノムのデータをフルに使い、過去に構築されたウイルスやホストのゲノムを含めた解析や、メタゲノムリードを使ったウイルスの時空間分布の解析にも踏み込んだ点だ。そのおかげで、メタゲノムではどうやっても見つからなかったCL500-11のウイルスを特定し、さらにその時空間分布や感染率まで報告することができた。個人的にはこれで目的としては十分達成だったのだけど、もうすこしジェネラルな研究にしたいということで目を付けたのが、感染率が系統ごとに大きく異なるという発見だ。詳細は論文のFig7を見てもらえれば分かるけれど、簡単に言うと、常に優占する宿主(oligotroph)ではウイルスと宿主の頻度依存的な選択の結果、感染率が低く抑えられている一方、資源の供給に素早く反応するような宿主(copiotroph)では、ボトムアップの効果が大きく、ウイルスによる選択圧があまり効いておらず、結果として感染率が高い状況が観察されるという仮説を提案した。論文のタイトルもこの仮説をメインにして、その中でCL500-11のウイルスの発見にも触れる、という構成にした。こういう背景があったので、CL500-11を短い論文の中でうまく位置付けなければならず、その文タイトルになっているoligotroph vs copiotrophへの焦点が少しぼやけてしまった感もあるし、この内容に展開させるためにイントロをごまかしたところもあってそこが突っ込みどころになって査読でも厳しいコメントがあった。そのほかmicrodiversityの話題だったり、MDAの増幅バイアスや共感染の有無やウイルス検出の擬陽性を細かく検証したり、色々と厳密やろうとしすぎた&盛り込みすぎたところがあって、前の論文と同様、もっとシンプルにしていればすんなり通っていたのかもしれないな、、、という反省もありつつ、せっかくだからこだわりポイントは全部盛り込んでおきたい、という論文になった。
ともあれ、CL500-11のウイルスも見つかって、科研費の当初の目的通りの成果が出せて良かった。この研究がうまくいったことで、すでに続編の第二弾のシングルセルゲノム解析のデータの解析も進めており、こちらも面白い結果が出てきている。やっと肩の荷が下りたので、切り替えて次の仕事に取り掛かっていきたい。