前回の記事では、今回出版した論文の内容を簡単に紹介したのだけど、どちらかというと書きたかったのはこっちだ。今回の論文は初稿完成から出版まで9カ月かかった。9カ月という期間だけみると、そんなに長い方ではないのかもしれない。だけど、原稿がこちらの手元にある時間がほとんど存在しなかったという点で、出版社の対応に疑問を抱かざるを得ないところが多々あった。せっかくなので、過去のメールをさかのぼって、これまでのスケジュールを確認してみた。
日 | 対応 | 所要日数 | 待ち日数 |
---|---|---|---|
4月2日 | 初稿が完成、共著者に回覧を回す | 0 | 0 |
5月9日 | すべての著者からのコメントが揃う | 37 | 0 |
5月11日 | 共著者すべてのコメントを反映した改訂が完了、共著者に再回覧 | 2 | 0 |
5月20日 | 共著者からの2周目のコメントが揃う | 9 | 0 |
5月21日 | 2周目のコメントに対応した改訂を完了し、英文校閲にまわす | 1 | 0 |
6月2日 | 英文校閲が返ってくる | 0 | 12 |
6月5日 | 全共著者からの投稿同意を得て、原稿完成。APCの支払方法で確認事項が生じ、Editorial officeにメール | 3 | 0 |
6月9日 | 返事がないのでリマインドのメールを送る | 0 | 4 |
6月11日 | それでも返事がないので、出版社に直接メール | 0 | 2 |
6月12日 | 出版社から返事があり、問題解決。ようやく投稿 | 0 | 1 |
8月16日 | 査読結果がminor revisionで返ってくる | 0 | 65 |
8月20日 | すぐに改訂稿とresponse letterを作成し、共著者に回覧 | 4 | 0 |
8月25日 | 共著者全員とのすり合わせが完了し、再投稿 | 5 | 0 |
9月, 10月 | Minor revisionだったのですぐ結果が出ると思いきや、全く音沙汰がなく、不毛で不満で不安な日々を過ごす | - | - |
11月6日 | 再査読も覚悟していたところで、いきなりアクセプトの連絡 | 0 | 73 |
11月7日 | 早速APCの請求書が来るも、6月に問い合わせていた事項が伝わっておらず、再び同じ問い合わせをする羽目に | 0 | 1 |
11月12日 | 返信を受け取る。相変わらずレスポンスが遅い | 0 | 5 |
11月14日 | APC支払に必要な書類を作成し、送付 | 2 | 0 |
11月21日 | 1週間経っても返事がないので、状況確認のメールを送付 | 0 | 7 |
11月23日 | ようやく返事があったが、書類に不備があるので作り直せとの内容でため息 | 0 | 2 |
11月25日 | 書類の問題を解決し、支払手続きがようやく完了 | 2 | 0 |
12月8日 | ここからがさらにひどかった。アクセプトから1カ月以上経って連絡がきて、やっとproofができたのか、と思ったら、video abstractを作ってやるからその素材を提供しろという内容。しかも翌日までに返事をしろと書かれている。これだけ待たせておいてその締切は無いだろと思ったけど、こんなくだらないことがボトルネックになっている事態はすぐに解決したかったので、即日で返信。 | 0 | 13 |
12月22日 | それから2週間待ってやっとメールが来たので、proof遅すぎだろと思いながら開いたら、「video abstractができたよ!確認してね!」という内容。こちらが送った文章を字幕にしてそれっぽい音楽と画像に合わせて動画にしているだけの、存在価値のよく分からない動画。こんなくだらないことがボトルネックになっている事態はすぐに解決したかったので、即日で返信。 | 0 | 14 |
1月5日 | なんと年を越してしまい、アクセプトから2カ月がたった。しかもジャーナルのウェブサイトを見ると、自分の論文よりも後にアクセプトされた論文がすでにpublishされている。どうなっているのかと、確認のメールをEditorial officeに送る。 | 0 | 14 |
1月8日 | またしても返事がないので、またしても出版社に直接メール。少し怒っている雰囲気を出しておいた。 | 0 | 3 |
1月9日 | 返事が来て、「もう少しでproofできるよ」という1行のメール。申し訳ないの一言もなく、delayの理由を教えて欲しいというこちらからの質問は無視。なんでもいいから早くしてほしい。 | 0 | 1 |
1月11日 | メールが来て、やっとか、と思ったら、「我々の対応はどうでしたか?」という出版社からのアンケートの自動送信メール。まだ対応をされていないので答えようがない。 | 0 | 2 |
1月12日 | ついにproofが来た。アクセプトから67日目。と思いきや、なんとaccpepted dateが12月7日になっている。確認しても12月7日には何のやり取りも発生してない。確かに11月6日にアクセプトの連絡を受けているし、散々待たされた一ヶ月が無かったことにされるのは不満だったので、「アクセプトの日付が間違っているから確認してほしい」とコメントを入れてすぐに返した。 | 0 | 1 |
1月24日 | 特に編集部からの確認の連絡等もなく、いきなり論文がpublishされた。そしてアクセプトの日付は12月7日のままで直っていない。video abstractも現時点で“The video is not available.”となっている。全てが不満だけど、それよりもやっと終わったことの方が嬉しかったので、めでたしということにしておいた。 | 0 | 12 |
初稿完成以降の合計日数 | 65 | 232 | |
投稿以降の合計日数 | 13 | 213 | |
Accept以降の合計日数 | 4 | 75 |
こちらの手元に原稿があった時間は、初稿から出版までの297日のうち65日だ。そのうち、共著者に原稿を回覧して同意を得るのに要した時間(合計49日)差し引くと、完全に自分の手元に論文があった日数はわずか16日になる。査読が2か月強×2ラウンドというのは、短くはないけれど、すごく長いわけでもなく、忙しい研究者にボランティアでお願いしていることを考えれば仕方がないと思う(minor revision後はほとんど見るところが無かったはずなので、もっと早くできただろ、と思うけれど)。不満なのは出版社の対応だ。投稿前も後も、メールを何度も無視され、仕事が遅く、対応も不誠実だった。特にアクセプト以降は、こちらの手元に論文があったのは4日なのに対し、75日も待たされた。今まで投稿してきた他のジャーナルでは、数週間でproofが来てpublishされていたので、異常に遅い対応だったと思う。そのうえ、アクセプトの日時を改ざんされるという仕打ちまで受けた。法外に高いAPC(£2890/$4170/€3380)を受け取っておきながら一体何にその金を使っているのか。まったく割に合わない仕事ぶりだ。
もともと、こういうオープンアクセス誌のやり方(法外なAPCと利益優先のいい加減な対応)が好きではなかったので、今回の論文も、元々は別のジャーナル(Molecular Ecologyあたり)に投稿しようと考えていた。ところが、共著者の一人から「APC出すからもう少し上のジャーナルから挑戦してみたら?」との提案をもらったので、チャレンジのつもりでMicrobiomeに出してみた。結果的には幸運にもそのままアクセプトされたのだけれど、とてもハイインパクトなジャーナルとは思えない、もう二度と投稿したいとは思えないような対応だった。
それから話は変わるけど、今回の経験を踏まえて改めて、雑誌のインパクトファクターというのはあてにならないなということを感じた。正直に言えば、前回出した論文の研究のほうが、はるかに多くの時間を費やし、はるかに多くのデータをまとめ上げた大作であり、こちらのほうがハイインパクトな雑誌に掲載されてしかるべきだと思っている。ところが、先日の記事にも書いたように、あの論文はエディターに恵まれず、何度もリジェクトされて、IFで見れば今回の論文の半分以下の雑誌に掲載されている。結局、ハイインパクトな雑誌に載るかどうかは、エディターや査読者との相性の要素が大きくて、研究の内容は思っていたほど反映されていない、というのがこれまでの自分の経験を踏まえた感想だ。一方で、論文を出した後の引用数は、おおむね自分が感じている自分自身の研究への評価に比例して多くなっている。これは嬉しいことだ。なので、以前から感じていた
自分の研究成果を掲載するのは「ちゃんと読んでもらえる」水準を超える雑誌であればどこでもよくて、大事なのは引用数だ
という思いをますます強くした。
今回の論文の出版が遅れてしまったせいで、2020年はファーストの論文がゼロという事態になってしまった。2021年中にもう一本出して穴埋めをしなければならない。次も大作になりそうなので時間的にちょっと怪しいけれど、ひとまずはそれを目標に頑張りたい。とにかく、Microbiomeに投稿することはもうないだろう。