yokaのblog

湖で微生物の研究してます

The 19th International Symposium on River and Lake Environment@武漢

 ISRLEに参加するため、中国武漢に出張に行ってきた。主に日中韓陸水研究者が集う国際会議で、以前日本で開催された回に参加したことはあったのだけど、今は中国はビザの面倒があるし、何よりも前の週まで東京→熊本→つくば→広島と3週間続けての出張が入っていたので、今回はスキップしようかと思っていたのだけど、基調講演での招待を受けたこともあって、思い切って参加してみることにした。

 運よく大阪から武漢までの直行便が復活したタイミングで、4時間かからずに到着。香港には一昨年行ったけど、中国大陸に入るのは会社員時代の10年ほど前に北京に出張に行って以来。そのときは深呼吸をすると咳が出るレベルで街の空気が汚かったのだけど、今回も飛行機で上海を超えたあたりから晴れているのにスモッグで何も見えなくなって、着陸寸前になってようやく地表が見える状態だった。北京のときほどはひどくなかったけど、日本では見たことがないレベルで空気が濁っていた。

 今回は招待されていたので全てが先方にオーガナイズされていて、空港から手配された車に乗って、手配されたホテルまで連れていかれると、すぐに手配されたパーティーが始まって、円卓に食べきれない量と種類の中華料理がふるまわれて、次々と白酒を小さなグラスに注いだ人があいさつにやってきて、中国に来た感が一気に湧いてきた。酒はたくさん注がれて飲まされるけど、だらだら深夜まで飲まないで早めの時間に終わるのが中国の宴会の平和なところで、毎日ホテルに帰ってから胃腸をリカバリーして寝る時間が取れたので、そこまで疲れなくて、毎晩日付が変わるまで飲んでいた前の週の微生物生態学会のほうがよっぽど過酷だった。

 3日間の会議で、参加者は9割が中国人で、中国の会議に日本・韓国・欧米からそれぞれ数名がゲストで参加したような感じだった。中国の研究者は多くが海外での経験持ちで、学生もほとんどが問題なく発表と質疑をこなしていて、英語レベルは日本よりも高いと感じた。陸水環境が主題の会議だったのだけど、プランクトン以上のサイズの生物の研究や、水質浄化や生物毒性などのやや応用寄りのテーマが多く、微生物生態学や物質循環の話題は少な目で、一番話したいと思っていた中国湖沼の微生物研究をやっているグループからも誰も来ていなかったのは残念だったけど、中国の研究の規模と勢いを感じる発表が多くて面白かった。今回は基調講演ということで自分は40分話す時間を貰えて、できるだけかみ砕いて話したつもりだったけど、思っていたよりもオーディエンスの専門が離れていたこともあり、残念ながらあまり深い議論はできなかった。唯一、プランクトンの系統地理をやっている中国の研究者がとても面白がってくれて、色々と情報交換でき新しいコネクションができたのは良かった。

 今回は基調講演で呼んでもらったので、懇親会でも他の招待メンバーと一緒に上座に招いてもらって、いろんな人が白酒を片手にあいさつに来てくれて、緊張しつつも有難く、貴重な経験ができた。最終日はエクスカーションで、正直参加するかどうか最後まで迷ったけど、これがとてもよくオーガナイズされていて濃密で楽しくて、会期中はほとんど出歩く時間が無く街を見る機会がなかったこともあり、結果的には行ってみて良かった。まずは研究所内にある長江の生物や研究の歴史の展示を見て回り、絶滅したカワイルカの実物の標本もみることができた。知らなかったのだけど、カワイルカとは別に、長江には淡水適応したスナメリの亜種が今も棲息していて、標本だけでなく研究施設で飼育されている個体を見せてもらうこともできた。

 研究と保全の歴史に関する展示もあったのだけど、驚いたのが、長江全域にわたって10年の禁漁政策中で、魚のサイズや個体数が急速に回復しているという展示だった。研究が政策に反映された成果として取り上げられていたけど、とてつもなく大きな長江の全域で10年もの禁漁をトップダウンで決めて実行できるパワーはさすが中国だと思った。

そのほかに中国のパワーを感じたのが、街中を走っている無数のバイクのうち、一度もエンジン車を見かけなかったことだ。車もだいぶ電動化が進んでいたけどまだガソリン車も結構いたのに対し、バイクに関しては本当に1台も見かけなかったし、何なら足漕ぎ自転車も淘汰が進んでいて、電動二輪に置き換えが進んでいるようだった。特に印象に残っているのが、夕方の帰りの時間に武漢大学の敷地内を歩いていた時のことで、無数の大学生が電動バイクで帰宅して道路を埋め尽くす中で、自転車に乗っているのはロードバイクに乗っているような一部の学生だけだったことだ。すごく便利な乗り物だと思うけど、みんなヘルメットせずに車の間をバンバンすり抜けていて、事故がどれだけ起きているのだろうかとか、一体この台数を充電するために街全体で毎晩どのくらいの電気が使われているのだろうかとか想像した。

 その後エクスカーションでは湖北省博物館にも行ったのだけど、ここもまた面白かった。日本だと紀元前の出土品といえば土器のイメージだけど、中国では2500年前にはすでに立派な装飾や文字が書かれた剣や楽器が存在していて、歴史の深さの違いを見せつけられた。そしてどこに行っても感じたのが、とにかく人が多いということだ。博物館では人に埋め尽くされていて近づけない展示もあったし、エクスカーション後半では東湖の湖畔をサイクリングしたのだけど、何キロもあるサイクリングロードを走っている間、反対からやってくる自転車が途切れることはほとんどなかった。

 泊まっていたホテルも都心からは離れていたはずだけど、どこを歩いても東京のように人がいっぱいいるし、そこら中に店があって夜遅くまで開いている。驚いたのは最終日に朝の飛行機に乗るために早朝の5時過ぎに真っ暗な外を歩いていても、登校するらしき学生の集団があちこちにいたことだ。これだけ人がいれば、勢いがあって当然だし、国外で中国人コミュニティが発展するのも理解できるし、物量では到底叶わないなと思った。

 あとは言うまでもなく、そして期待通り、ひたすらご飯がおいしかった。どこに行っても食べきれない量の美味しいものがでてくるので、大体海外に行くと体重が減るのに、今回は増量して帰ってきた。量だけでなく種類もすごくて、大体レストランに行くと、円卓を埋め尽くす料理が出てきて、全部を一口ずつ食べるとちょうど満腹になるくらいだった。莫大な人口を抱えながら、それを満たすだけの種類と量の美味しい料理を出し続けられるリソースの無尽蔵さもすごし勝てないと思った。百聞は一見に如かず、日本で情報を見ているだけでは分からない中国の様々な面を体験することができ、出張ラッシュをしめくくるとても面白い経験になった。