yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

「未来の当たり前」を考える

 研究計画を立てるときの話。研究の世界ではだいたい、実際に実験してデータを出している段階から、論文が出版され成果が世間に公開される段階までに、数年のタイムラグがあるのが普通だ。だから、自分が新しい研究テーマを考えるとき、今論文になって出ているような、すでにみんなが関心を持っている問題にこれから取り組んでも周回遅れで、最先端の研究をやるには、今水面下で動いている動きを察知して、「これから関心を集めそうなテーマを先読みする力」が必要だと思う。

 で、そのうえで有効なのは「未来に当たり前になってそうなものは何か」を想像することなんじゃないかと思っている。具体的には、

◆未来に当たり前になってそうなのにまだ無いものは何か?

⇒その当たり前になってそうなものが提示する次の問題は何か?

みたいなことを考えると、おのずと良い問いが立てられ、先進的な研究計画が思い浮かぶのではないかということだ。

たとえば、微生物生態学の分野でちょっと考えてみると、

◆NGSによる16S, 18Sを対象にした微生物群集分析が、温度や栄養塩条件といった環境パラメーターと同様のレベルでそこらじゅうで当たり前にとられるようになる

⇒「ある環境条件下でどの微生物群集が出現するか」という見方から「ある微生物がどの環境条件に出現するか」という「逆引き」の見方ができるようになる。これにより、微生物を「群集としてみる」現状から「1種類ずつみる」動きが加速する。また、NGS分析データと他の環境パラメーターのデータの紐づけが必要になり、メタデータの入力支援や自動化が進む。

◆1細胞レベルで難培養微生物のゲノムが当たり前に読まれるようになり、「単離できるかどうか」は大きな問題ではなくなってくる。

⇒「未培養の微生物」よりも、どんどん見つかる「未同定の遺伝子」をどう扱うかが次の問題になる。遺伝子やタンパク質ごとに、「どのような微生物がもつものか」という情報が整理され、そこから機能を推定するアプローチがとられるようになる。

◆シーケンスのコストが下がり、「誰でもどこでも」当たり前に使えるようなツールになる。

⇒「モデル生物」という概念がなくなり、自然に存在するあらゆる生物が平等に研究対象とされるようになる。地理的な違い、季節的な変化など、野外の環境に応答した変異を個体レベル・分子レベルで見る研究が一般化し、これまで生態学が溜めてきた知見に対する他分野からの関心が高まる。

といったことが思い浮かぶ。こういった「将来話題になりそうなテーマ」を今のうちから念頭に置いて研究を進めることで、同じ研究対象を扱っていたとしても、アプローチもストーリーの構成も変わってきて、より先進的で賞味期限の長い、インパクトの大きな研究になるんじゃないだろうか。

 科学が進歩するスピードは本当に早い。今最先端だと思っている研究テーマも、2、3年すれば一般化し、5年も立てば次のテーマに置き換えられて行ってしまうだろう。それを常にフォローするだけでも大変だけど、本当のフロンティアで試行錯誤している人たちと同じ土俵で研究をするためには、先回りをして将来のテーマを考えるところまでやらなければ難しいと思う。

 新しいものを取り入れることや、そのための試行錯誤を厭わず、未来の問題に取り組み続ける。大変なことだけど、そうやって自分で新しい分野を切り拓く(そして失敗する)自由が与えられていることは、研究者だからこそ味わえる面白さなんじゃないかと思う。