yokaのblog

湖で微生物の研究してます

系統地理は面白い

湖調査⇒陸水学会の1週間の北海道滞在を終えて、滋賀に帰還。

陸水学会では色んな分野の研究者の話を聞くことができて楽しかった。同業のプランクトン研究者の話はもちろん、もう少し大きな生き物の研究や、普段なじみのない物理・化学系の研究発表も聞くことができ、同じ湖でも様々な視点で研究している人がいるなぁ、と感じた。

特に面白かったのは水棲昆虫の地理系統をやっている人達の話。「日本中に分布するが限られた環境にしか生息できない」みたいな生物で分子系統樹を書くと、「西日本と東日本できれいに分かれる」といった結果が出る。水棲昆虫の場合は、魚と違って人為的な移出入がほとんどなく地質学的な歴史からもある程度説明がつけられる場合が多いそうだ。

プランクトンや細菌の場合はどうなんだろう?一般的に動物は小さくなればなるほど移動能力が下がって地域ごとの分化が進むと考えられている。日本中を行き来できる鳥よりも、湧き水にしか生息できないような魚や虫のほうが、地域限定的な群集ができやすいのは、直感でわかる。でももっと小さい生き物になると、状況は変わってくる。「個体数が異常に多い」というファクターが入ってきて、偶然の移出入の可能性が上がってくるからだ。プランクトンや細菌の場合は、1 mlの水に1万個体を超える量が普通に生息する。それだけいれば、1個体くらいは鳥の足にくっついたり、風に巻き上がった水しぶきや砂に乗って、自身の移動能力をはるかに超えた距離を移動していてもおかしくない。プランクトンや細菌は無性的に増殖できるから、1個体の移入があれば、そこを新たな住処にするのには十分だ。このあたりの議論については、以下のNature Reviews Microbiologyのレビューが詳しい。

Microbial biogeography: putting microorganisms on the map : Abstract : Nature Reviews Microbiology

一方で、全てのプランクトンや細菌が世界中に生息するというわけでは決してない。琵琶湖に生息する「ビワクンショウモ」という植物プランクトンは琵琶湖固有種だと言われているし、珪藻の研究では、「意外と地域間格差が大きく、自然の分布よりも、人間の手による移出入の影響のほうが大きいかもしれない」ということも報告されている。

このあたりのことは、まだまだ分かっていないことだらけだ。もしかすると、研究者が同じ採水器やバケツを使って複数の湖を調査することが、見えていないところで深刻な遺伝子汚染を引き起こしているかもしれない。シーケンス技術の普及により、数が少ない生物を検出したり、1塩基違いの分解能で分子系統を明らかにしたりする研究が徐々に可能になってきていることで、この分野の研究は今後数年で大きく進歩すると思う。僕の研究でも似たようなことをやろうとしているけど、魚や水棲昆虫の研究で分かっている系統地理パターンと組み合わせて考察できるような結果がでれば、とても面白いと思う。