yokaのblog

湖で微生物の研究してます

支笏湖&十和田湖調査

支笏湖十和田湖の調査に行ってきた。支笏湖は昨年台風で中止になり、今年の当初の計画も地震の影響で中止になり、次は噴火でも起こるのではないかとビクビクしていたけど、天気にも恵まれて無事全サンプルを計画通りに収集して帰ることができた。

まずは新千歳に飛んで、支笏湖の調査から。水深は360m。f:id:yokazaki:20181020120147j:plain

調査は3名で実施し、自分は深水層の細菌を捕獲(主にメタゲノム用のDNAサンプルの収集)するのが目的。まず最初に水質計を下ろして水温・クロロフィル・溶存酸素等を確認。今回も電動リールを改造したウィンチが活躍した。

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朝の気温は一桁まで下がっていたけど、湖はまだ20mあたりで成層していて、表水層が15℃、深水層が4℃。国内でもトップレベルの貧栄養湖なので酸素は深層まできっちり残っていたけど、前日までの雨の影響か、表層水は思ったほど澄んでなかった。透明度の高い湖だと、外洋のようにクロロフィルのピークが躍層以深に出ることも多いのだけど、今回はピークが出ていたのが18mでかなり浅かった。

採水後は即座にホテルに水を持ち帰り濾過。ラボでの処理と違って、持ち込める機材や使えるスペース・時間が限られるので、採水量や採水深度は様々なトレードオフを考慮しながらギリギリの量で進めている。失敗はできない。

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予想通り水はスカスカで、数リットル程度の濾過では全然フィルターが詰まらない。深水層では1個のフィルターに琵琶湖で濾過する3倍の量の湖水を流しても、まだまだ余裕がありそうな感じだった。十分なDNA量が取れているのか、若干不安になる。この後の固定サンプルの計数で細菌の現存量も明らかになるけど、おそらく10万細胞/mL台前半だと思う。

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 翌日は使った機材の洗い物地獄。調査や濾過よりもこっちのほうが精神的に疲れる。使える機材やスペースが限られる中での作業なので、使い捨てるものとリサイクルするものを使い分けて効率よく次の調査に備える。

移動日には千歳川のサケ漁をみることができた。無限に捕れていて、最初は珍しいことが起こっているのではないかと思って見ていたのだけど、どうやらこの時期には一日数千匹捕れるのも普通らしい。こんな川が普通に街中にあるなんてすごい。

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そして本州へ。機材があまりに多いので、車ごとフェリーで津軽海峡を渡る。

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ちなみに今回の出張で一番高速なインターネットが使えたのがこの船内だった。さすがに1週間デスクワークをサボると色々と溜まるので、3時間半ネットが不自由なく使えたのはとても助かった。

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 そして十和田湖へ。水深は326m。

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朝の気温は2℃まで下がっていたけど、表水温や水温躍層の水深は支笏湖とほぼ同じ。面白かったのが、深水層の水温が5℃だったということ。十和田湖は結氷することもある2回循環湖(=冬季に表層が密度が最も大きくなる4℃を下回り、逆成層ができる)なので、深水層の水温は4℃付近になるはずだと思っていた。この湖は2重カルデラで、湖底が複雑な地形をしていて、最深部を含む水深が200mを超えるエリアが偏って存在している。これらのエリアでは2回循環にはなっていないということなのだろうと思う。同じように湖底地形が複雑な屈斜路湖でも深水層の水温が4℃を上回る現象が見られる。

途中で採水器のケーブルが切れるアクシデントがあったけど、予備のパーツで船上修理。同行メンバーの準備の良さに感動。野外調査は、限られた資源で様々なリスクを想定して計画しなければならない。

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紅葉シーズンが始まっていて、平日でも人がたくさんいた。釣り竿で採水器を垂らしているのが珍しいのか、観光船が目の前を通る。引き波がきついので止めてほしかった・・・

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こんなに良い場所まで来て、天気にも恵まれて、水だけ採って何もせずに帰るのは勿体ないので、帰り道に展望台で写真だけ撮った。今度はゆっくり観光に来たい場所。

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絶景を後にして、急いでホテルに戻り、うす暗い部屋で濾過地獄に入る。とんでもなく高い水なので、1滴も無駄にせずフィルターに流し込む。

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感覚的には支笏湖とほぼ同じ濾過量でフィルターが詰まる感じ。いずれの湖も、潤沢なDNA量が採れたとは言えない。やはり貧栄養湖の調査は難しい。もっとたくさん水をとれば良いではないか、というのはその通りなのだけど、300mの水を1回採るだけで30分はかかるし、採水量を増やせばそれだけスペース・重量増になるので、限られた資源の中でそれを行うのは簡単なことではない。天候リスクもある中、大遠征で大水深湖の調査を、限られた人員と予算で最大限にこなし、計画通りに実施できただけでも大成功だったと思う。あとはこの貴重なサンプルを無駄なくミスなく処理して最大限のデータにしなければならない。まだまだこれからが大変だし緊張するところだ。