yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

淡水湖の深層に生息する細菌たち

新しい論文が公開されたので紹介。

ざっくりいうと、

淡水湖の深水層がオモロイ細菌の宝庫であることを報告

した論文。

僕は修士時代の研究で、琵琶湖深層に独特の細菌系統「CL500-11」が大量に生息していることを報告した。それ以降、

淡水湖の深層は未知の微生物の宝庫であり、他にもオモロイ細菌がいるはず

という仮説を検証したくて研究を行ってきた。昨年出した論文はその足掛かりで、CL500-11以外にも深水層に特異的な細菌が存在することを琵琶湖で明らかにした。

今回の論文は「琵琶湖得た仮説を全国の湖に拡張して検証する」という位置づけで、僕が博士課程に戻ってくる前から構想していた、学位論文のメインテーマとなる研究だ。

「大水深淡水湖の細菌図鑑」となるような徹底的・網羅的な研究を目指す

というコンセプトで、

  •  北海道から鹿児島まで、最大水深約50~200 mの全国10の大水深淡水湖を調査
  • 16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンスで各湖の細菌群集組成を網羅 
  • 特に注目する細菌系統についてはFISH法にて顕微鏡下で染色し、形態観察と定量
  • 得たデータをもとに先行研究や塩基配列データベースの情報を洗い出し、情報を統合的に整理

という流れで研究を行った。その結果

  • 湖の深層には表層とは全く異なる系統の細菌が生息する
  • これらの系統は世界中の湖に共通して生息する
  • その現存量は最大で全細菌の3割を越え、量的にも寄与が大きい

ということを示した。これで当初の予想通り、めでたく「湖の深層はオモロイ細菌の宝庫」ということを明らかにすることができた。

何が面白い/すごいのか

表向きの回答

今回見つかった「湖の深層に生息する細菌たち」はいずれも培養が難しく、その生態・性質は謎に包まれている。彼らの存在量(これらの系統は湖水1mlあたり10万細胞以上が満遍なく存在している)を考えると、水中の有機物の循環や微生物食物網で不可欠な役割を担っている可能性が高い。今後これらの細菌の生態を詳細に調べることで、物質循環や生態系の重要なプロセスを明らかにできる可能性がある。この問題に挑戦するために、今は各細菌のゲノム情報を構築し、代謝機能などの分析を進めている。

裏で考えていること

「オモロイ細菌の宝庫」というのは湖の深層がもつ一つの側面でしかなく、この生態系にはまだまだ発見が眠っていると考えている。例えば、この研究系は

 なぜ地理的に離れた湖に同じ系統の細菌が生息しているのか?

という疑問に応えうると考えている。摩周湖深層水と琵琶湖の深層水は物理的に隔離されているのに、同じ系統の細菌が生息している。それはなぜか?実は細菌は鳥にくっついて移動してたりするのだろうか?この問題に対してはすでに16S rRNA遺伝子塩基配列の1塩基多型を分析することで、ヒントが得られつつあって、今後さらに解像度を上げてその実態を解明する予定だ。

現在進めているゲノムの分析でも、すでに今回の論文の発見を一部覆すような結果が出ていたりして、次々と新しいデータが得られている。大水深淡水湖は「オモロイ細菌の宝庫」のみならず「オモロイウイルスの宝庫」であり「オモロイ遺伝子の宝庫」であり「オモロイ生命現象の宝庫」でもあると僕は考えていて、そういう方向に研究を成長させていきたいと考えている。そのためには、まずは足場を徹底的に固める必要がある。だから僕はこの研究を「湖の深層にオモロイ細菌がいる」という単なる記載的な研究で終わらせず、湖の深層を「新発見の鉱山」へと開発していくための足掛かりと位置付けている。

(余談)論文投稿プロセス

今回の研究は、2015年の夏に調査して、秋~翌春にかけてデータを出して、2016年の夏に論文を書いて、 11月に投稿した。そこから最初のDecisionまでが4か月弱。ここは本当に長かった。この5月に提出する学振PDの申請に業績を間に合わせたかったこともあり、焦りとストレスの募る日々だった。ようやく返ってきた査読結果はMinor Revision。3名の査読者がいたのだけど、うち1名は実質Major Revisionではないかという修正量で、約2週間かけて直して送り返した。そこからさらに1か月以上待たされ、再査読も覚悟してもう5月中の受理は諦めていたところ、突然アクセプトの連絡で、なんとか申請に間に合わせることができた。なんでこんなに査読が遅いんだと思っていたけど、同じ日に公開された他の論文を見ても、大体11月頃に投稿していたので、みんなそんな感じなのかなぁと。今回は初めてプレプリントサーバーのBiorxivを使ってみたのだけど、おかげで論文がなかなか世に出ないストレスが多少軽減できたのは良かった。プレプリントサーバーに関してはメリットデメリット色々言われているけど、今回使ってみた感想として総じて言えば「思っていたほどの反響は無いけど、同業者の一部は確実に読んでくれている。差し支えないものに関してはどんどん使ったら良いのではないか」という意見だ。プレプリントサーバーの普及は急速に進んでいるから、人口が増えてきたら状況も変わってくるだろうと思うけれど。

そういうわけで、博士課程に戻ってくる前から構想していた研究が一通り論文になったのは嬉しい。当初想定していたよりも研究は順調に進んでいると思う。一方で、すごい人を見ればキリがなくて「自分はまだまだだし、まだまだ行けそうだ」という感覚もある。まだまだこれからです。