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yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

全生物の系統樹

 全生物の系統樹の最新版が出たということで、昨日は微生物研究者界隈で話題になっておりました。僕はこの論文の存在をTwitterでフォローしている海外の研究者が騒いでるのをみて初めて知ったのだけど、人類の知のフロンティアで戦っている研究者たちがリアルタイムで興奮しているのを、ペーペーの自分もリアルタイムで共有できるなんて、何とも興奮することだし、すごい時代になったなーと思う。そしてその興奮を一人でも多くに共有すべく、オープンアクセスで出版してくれた著者らに本当に感謝。ちなみにNature Microbiology誌はこの1月に発刊されたばかりの雑誌で、まだ自分の大学からも本文にはアクセスできない状況だ。面白そうな論文がいっぱい出てるのだけど、ほとんど読むことができないんですよね・・・

というわけで、読んでみた。

1行にまとめると

この世の生物の多様性のほとんどは、目に見えないし培養できない細菌で占められる

3行にまとめると、

  • 次世代シーケンサーの登場で、環境中の培養できない細菌のゲノム情報が得られるようになってきたので、系統樹の更新が必要だ↓
  • 既存の全生物のゲノム情報に、新たに得た1000を超える細菌の情報を加え、16個のリボソームタンパク質の配列を用いて系統樹を作成した↓
  • 系統樹で示される多様性の半数以上が未培養の細菌系統によるものであり、未培養の系統のみで構成される巨大なグループによって細菌が二分される結果となった

 という感じ。

  Fig1が本研究のメインの結果となる系統樹だけど、多くの枝にについている赤丸がまだ培養に成功できていない系統を示す。人間や植物を含む全ての真核生物が右下の小さい枝に含まれていることを考えると、いかにこの世が多様で未知の生物に溢れているか、ということが分かる。

 ただこれは、「多様性において」未培養細菌が大多数を占めているという話であって、「量において」はそうとは限らないということは注意。実際、培養できない系統のほとんどは生物に一般的な代謝経路を欠いており、他の生物と共生(寄生?)して生きているのではないかと言われていて*1、大量に生息し、どんどん分布を広げていくような生物ばかりというわけではない。

 もう一つ留意すべき点としては、この系統樹はあくまでもリボソームタンパク質の配列に基づいたものであるということだ。全生物を対象とするとなると、良く保存されていて、組み換えの少ない遺伝子を使って比較をする必要があるため、目的にかなった選択ではあるけれど、情報を増やしたり減らしたりすれば、当然(似てはいても)違った形の系統樹が現れることになる。リボソーム領域(rRNA)の遺伝子がほとんど一緒の細菌同士でゲノムが全然違う、という報告はすでに数多くある*2し、本論文でも著者らが触れている点として、リボソームタンパク質で描いた系統樹では真核生物は古細菌の枝の中に位置づけられるのに対し、SSUリボソームRNAで描いた系統樹では、 真核生物は独立した系統を成すという、全く違う結果となる。真核生物と古細菌の関係はどうなっているのか?という話題に関しては、まだ決着がついていないところで*3、改めて微妙な位置関係にあることが今回示された形だ。この点については、著者らも論文中で「今回の系統樹作成の目的は真核生物の位置づけを明らかにすることではない」と明言している。

 このように、分析の方法によって結果が変わるというのを前提としたうえで、今回の結果を解釈する必要がある。今生きている生物達は、単に共通祖先から枝分かれしたのではなく、共生や遺伝子の交換を繰り返した結果として存在している、というのがおそらく現実だ。違う情報を使えば違う結果が出るし、どんな情報を使っても永久に「真実」を知ることはできないだろう。そして今後もどんどん環境中の難培養細菌のゲノム情報は蓄積されていき、この系統樹もどんどん見直されながら形を変えていくことになるはずだ。

 それでも、近年の急速なシーケンス技術(メタゲノム技術)の発展を受けて、改めて情報を整理しなおした本研究の意義は大きいと思う。なにより、この世はまだ、誰も見たことがない正体不明の生き物で溢れていて、研究すべきことは無限に存在する、ということが改めて明るみになり、多くの人々に「ワクワク」を与えたという点で、インパクトのある成果だと感じた。やはり科学は「おもしろい」ことが第一ですね。