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yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

微生物の研究の面白さを伝える

 研究者にとって自分の研究の魅力を上手く伝えることは死活問題だ。相手が研究者ならともかく、非研究者にその面白さや謎の深さを理解し、共感してもらうのは本当に難しい。僕自身も、親や親戚に「何の研究やってるの?」と聞かれて、一生懸命(目を輝かせて)話すのだけど「うーん、難しいね。。。」で終わってしまうのが常で、上手く伝えきれない自分の無能ぶりに惜しさを感じていた。

 そんなわけで、役に立つかどうか分からないけど、非研究者にも一言で微生物の研究の面白さを伝えられるかもしれないネタを集めてみた。

1.地球上に生息する細菌の数は、全宇宙の星の数よりもはるかに多い

僕はこれが一番インパクトがある(と勝手に思っている)。宇宙のことを想像するだけで人生のあらゆる悩みがどうでも良くなってくるくらい宇宙はでかいのに、全宇宙の星の数よりも、この地球上に生息する細菌のほうが多い。しかも、はるかに多い。星の数が大体10の22~24乗個と言われているけど、地球上に存在する細菌の数は10の30乗個と言われている。どちらもでかすぎて誤差のように感じるけど、10の24乗と10の30乗は、想像できないくらい全然違う。宇宙1万個分の星の数よりも、地球の細菌の数のほうが10倍多い。言い換えたけどやっぱり想像できない。ちなみに地球上に存在するウイルスの数はその細菌の数よりもさらに10倍多いと見積もられている。さらに想像できない。

2.ティースプーン1杯の水に100万、土に10億の細菌が存在する

海・湖・池・水たまり等、 地球上の表面のどこの水をすくってきても、1 mlに大体100万~1000万の細菌が生息している。海の大部分を占める深海の水にも、余すことなく、どの場所・どの水深の水にも、少なくとも1 mlあたり1万の細菌が存在する。土の中にはもっと多くて、一つかみの土の中に、世界の人口を超える数の細菌がいる。それが地上の土だけでなく、海や湖の底の泥も含め、地球上の表面という表面、あらゆる場所に生息している。80歳まで生きれば、人生2.5億秒だけど、生まれてから死ぬまで寝ずに1秒に1匹ずつ細菌を数え続けても、コップ1杯の水、ティースプーン1杯の土の中の細菌を見ることもできない。しかもその間に細菌のほうは6万世代くらいは入れ替わっているだろう(細菌の世代時間を半日として)。想像するだけで絶望的な気持ちになる。

3.自分の体には自分自身の細胞よりも多くの数の細菌が存在する

これは割と有名な話だから知っている人も多いかもしれない。人間の口の中や腸内にいる細菌の数は、人間自身の体の細胞の数よりも多い。人の体重の約1キロは細菌でできていて、人は毎年自分の体重と同じ重さの細菌を排泄していると言われている*1。ちなみにちょっと前は「細菌の数が人間の細胞数の10倍」とかいう言説もあったけど、最近は「それは言い過ぎでは」という話で、30兆の体細胞に対して、細菌数が40兆の見積もりとのこと。それでも十分多くて想像できない数であることには変わりがない。

 4.細菌1匹1匹が、細胞の中に100万文字以上の情報を持っている

数だけでも恐ろしいのに、もっと恐ろしいのは、その1匹1匹の細胞がそれぞれの中に「A・T・C・G」の4文字の並びで表現される、少なくとも100万文字の情報をDNAとして持っているということだ。全てテキストファイルにするとすれば、スプーン1杯の池の水にいる細菌のDNA情報だけで1TBのハードディスクが埋まることになる。しかもその情報は細胞の分裂に伴って複製され、どんどん拡散していく。宇宙の果ての星のことどころか、植木鉢や金魚鉢の中で起こっていることですら、全てを情報にして理解するのは不可能だということが分かって、またも絶望的な気持ちになる。

 5.細菌は地球上のあらゆる環境に存在する

植物や動物がいない場所というのは地球上を探せばたくさんあるけれど、細菌がいない場所を見つけるのは本当に難しい。水・土・泥・体の中の他に、高温・高圧・無酸素の環境や、南極の氷床の下、地下3キロを超える地殻内や成層圏にまで、人間が思いついてアクセスできるような場所には大抵細菌は生息している。地球上の知られざる場所で生息する細菌が全て調べ尽される日は果たしてくるのだろうか。細菌を研究していると、「似たようなものが宇宙にいるに違いない」と考え出すのも不思議でない。

6.ほとんどが培養できない、いわゆる「微生物ダークマター

微生物の研究を謎と可能性に満ちた、宇宙の研究並みにワクワクするものに仕立てているポイントがこれだと思う。これだけ様々な場所に生息するのだから、それだけ多様なタイプの細菌が生息していて、調べると色々分かるはずなのだけど、困ったことに、環境中の細菌の9割以上が「培養ができないので何者か判別すらできない」細菌だ。近年、次世代シーケンサーが登場し、培養できない細菌も含め「そこにいるものを根こそぎ調べる」方法が確立した。その結果見えてきたのは「分からないものだらけ」という現実だ。植木鉢にいるものも、金魚鉢にいるものも、9割以上が何をしているのか分かっておらず、名前すらまだ付いていない微生物だ。これらの微生物は宇宙のダークマターにあやかって「微生物ダークマター」と呼ばれている。このかっこよすぎる、かつ的確すぎるネーミング。最初に考えた人は天才だし、もっと流行るべきだ。

 

とまぁ、あれこれ書いたのだけど、結局、親戚や親に話すと一番受けるのは、

薬を作るような微生物が発見できれば大村先生みたいにノーベル賞ありうるで!

っていう話なんですよね。いや本当に、大村先生のおかげで日本中の微生物の研究者が助かっていると思う。しかし真面目な話、これまで培養可能な1割の細菌しか相手できなかった中で、これだけ有用な微生物が見つかってきたことを考えると、残りの9割のダークマターの正体が明らかになれば、さらなる発見が次々と出てきてもおかしくない。そこは大げさではないと思うのですよね。

そういうわけで、微生物の研究は、宇宙の研究に引けを取らないくらい、絶望的に広大かつ魅力的で、謎と可能性に満ちている。このヤバさを共有しないのは本当にもったいない。もっといろんな人に知ってもらいたいし、伝えていきたいと思う。

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↑琵琶湖の細菌の顕微鏡写真。ちなみにこの中に2匹だけ、今研究対象にしている細菌がいます。FISHという手法を使って、同じ視野で顕微鏡の光の色を変えることで、その細菌を見つけることができます(↓)。こいつも培養できない、ダークマターです。

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