yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

次世代シーケンサーの次にくるもの

 鳥取で行われていた微生物資源学会という学会に参加。単離や株の保存に関する学会で、自分がやっている生態の研究からは少し分野違いだけど、ある微生物のことをしっかり知ろうとすると「単離する」のがやっぱり一番効果的な方法で、その道のプロの人たちと情報交換をしたいと思い、思い切って参加してみた。最先端の人たちの様々な試行錯誤を目の当たりにできて、思った通りの内容で満足。あと、キノコの品種改良を研究している人達がいて、懇親会でそのキノコを実際に食べさせてもらえる機会ががあったのだけど、これがおいしかった。学会の懇親会で「研究にまつわる食」を提供するのって面白いアイデアだと思う。自分の研究分野だと何だろう・・・「ミジンコふりかけ」とかしか思いつかん、、、

 話は戻って「なぜ単離なのか?」という点について。今、微生物生態学(特に細菌)の研究分野では、次世代シーケンサーやシングルセルの技術の急速な普及で、ものすごい勢いで環境中の微生物の群集組成やゲノムが読まれるようになってきている。「環境中の細菌の9割以上が培養ができない」というのはよく言われることだけど、今や培養なんかに頼らなくても、野外から採ってきた微生物をそのまますりつぶしてDNAやRNAを出してしまえば、いくらでも研究ができてしまう。アメリカンな、組織力と金にモノを言わせた大型研究が幅をきかせていて、次々と未開拓の環境からサンプルを採ってきて、メタゲノム、メタトランスクリプトーム、シングルセルで片っ端から塩基配列を読み散らかして、どんどん論文を量産している。ほんと、ボーナスステージだ。へんな環境から微生物を採ってきて、お金出して次世代シーケンサー回せば、新しい発見が出てきて、論文になる。なんかずるいけど、思い返せば、DGGE、FISH、クローニングなんかが出てきた時も同じことが起こっていて、「新しい技術=新しい発見」という結びつきが強い微生物の研究の場合「新しいものに飛びつく」というのが、コスパ良くハイインパクトな研究を続ける秘訣、というのが割と現実なんじゃないかなぁと思う。

 

 じゃあ、その次に来るものはなんだろうか?色んな人が今答えを探している問題だと思う。僕は一つの答えとして

 次世代シーケンサーが読み散らかしたデータを整理し、1つ1つの細菌系統や遺伝子に注目した研究が必要になる

と思っている。去年のNarure Reviews Microbiologyに載っていたレビューによれば、全細菌の種類数(16Sに基づく分類系統の数)の増加(新発見)は少しずつ鈍ってきていて、このペースでいくとあと数年で高止まりするだろう、ということが描かれている。これは「調べれば調べるほど無限に出てくるだろう」と思っていた大多数の直感に反する内容だ。このデータが示すのは、おそらく、次世代シーケンサーで次々に新発見が得られるボーナスステージは、あと数年で終わってしまうだろうということだ。

 で、そうして、「データをとりまくる」ステージを楽しんだ人たちが次に向かうのは、「データを読みまくる」ステージではないだろうか。今はまだ、データをとれば新しいことがたくさん出てくるので、そっちに注目したほうが効率的だけど、だんだん新発見が飽和してくると、データを読み込む余裕が出てきて、個々のデータに注目するような研究が増えてくるのではないだろうか。例えばマーケティング業界でも、データ量を集めて統計的に大衆の動きを把握する従来の方法から、一人一人の購買行動に注目した1対1のマーケティングが流行りになってきている。データ量から得られる発見が飽和した時にはじめて、個々に注目する余裕ができ、新たな発見につながるのではないだろうか。例えがちょっとおかしいかもだけど。

 動きの早い人たちは、すでにそういう方向に進みつつあるようにも思う。例えば次世代シーケンサーによる16S塩基配列の分析で、従来「OTU」としてまとめられていた近縁な系統同士を1塩基レベルの違いに基づいて分類するOligotypingというアルゴリズムは、2013年に発表されたばかりだけど、もう40回以上も引用されている。この手法を使うことで、従来OTUとしてまとめられていた系統が複数のエコタイプで構成されていて、環境・季節・地理に応じてかなり規則的に分布していることなんかが明らかになってきている。こうなってくれば、次は個々のエコタイプが、それぞれどういう機能・役割を持った生物なのかに注目した研究が可能になってくる。そして当然、個々の生物に注目するようになると「単離」の必要性も増してくる。依然として単離は長く高コストな道のりではあるけど、そのコストを上回って人々の単離欲を掻き立てる「重要種」がこれから次々と出てくるのではないだろうか。

 ・・・というか、もっとさかのぼった話をすると、そもそも多くの研究者が生物の研究を志すきっかけって、生き物を「見たり触ったり」することが楽しいからだ、というモチベーションがあるからだと思う。なのに、見たことも触ったこともない、塩基配列だけで捉えられる存在をひたすら追いかけるのってどうなんだろう、って思うんですよね。やっぱり飼い慣らして名前を付けて愛でたいし、せめてFISHで染めて顕微鏡で観察するくらいのことはしたいよなーって思うんですよね。

 そういうわけで、参加した学会でした。色々教わったことを早速自分の研究でも試してみたい。ちなみにこの学会で、口頭発表賞をいただくことができました。「これで来年も来なきゃいけなくなったね!」と何人かに言われたので、来年は単離の成果を発表できるように頑張ります!