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yokaのblog

琵琶湖で微生物の研究してます

自分の「大きな問い」

 先日あった、学生の「研究計画発表会」で自分の研究計画を発表したとき、とある教官から「君の研究のBig Questionは何だ?」という質問をうけ、不意打ちだったのでうまく答えることができず、その後色々と考えていた。以前にも書いたけど、研究者として、ずっと追いかけ続けていられるような、(なかなか解決できないけど解決するに値するような)大きな問題意識を根底に持っておくことは重要なことだと思う。そこでもう少し煮詰めて考えてみた結果、最終的にこんなことが分かれば面白いんじゃないかなぁ、というのに一つたどり着くことができた。

どこにでもいるけど、少ししかいない生き物って何をしているのだろう?

 どの生き物でもそうだと思うけど、「たくさんいるやつ」と「少ししかいないやつ」がいる。僕は水の微生物以外はあんまり詳しくないけど、たとえば細菌だと、次世代シーケンサーで、ある環境の細菌群集を網羅的に調べると、出てくる細菌の半分以上の種類は、リードの総数(細菌の総数)の0.1%以下の数しか出てこないやつだと言われている*1。つまり、細菌の世界は、少人数政党が過半数を占めている状態になっているということだ。では、その細菌たちは何をしているのか。
 一つ考えられるのは、その環境では細々と生きているけど、条件がそろえば一気に数を増やすポテンシャルを持っているというパターンだ。この場合は、少数派は「タネ」として機能していて、広い範囲に少量を分散させておくことで、自分に合った環境が出現するチャンスを待っているのだと考えることができる。
 もう一つの可能性は、「そもそも細々と暮らすのが生き様だ」というタイプだ。これは色んな場所にいるのはいるのだけど、どんなときも少数派で目立たない存在、というやつだ。細かく考えることはここではしないけど、普通に考えると、こういう生き物は、成長が遅くて、他の生き物ができないことができる(食えないものが食える、生きられない場所で生きられる)、そして攪乱に弱い、という共通点があると考えられる。僕が面白いと思うのは、どちらかというとこっちの生き物だ。

 微生物の研究では、今まであまりに目立たなくて注目されてこなかった細菌が、次世代シーケンサーを使った網羅的解析で検出できるようになってきている。こういう「どこにでもいるけど少ししかいないやつ」というのは、まだ研究されていないけど、これからどんどんみつかってきて、実は重要な奴が多いんじゃないか?と考えている。
 なぜなら、先に書いたように、基本的にこういう生き物は「他の生き物が生きづらい環境を得意とする」という特徴を持っていると思われるからだ。たとえば、最近出た研究で、Planctomycetesというまさに「どこにでもいるけど何やっているか良く分かっていない」細菌が、土壌で、他の細菌が使いにくい難分解性の有機物を使っている、というのがあった*2。たとえばもし、1種類のバクテリアにしか分解できない(物理的にも分解されない)物質があったとすると、もしそのバクテリアがいなければ、地球上は長い年月のうちにその有機物で埋め尽くされることになってしまう。深海なんかだと、分解されるのに数万年かかる有機物が存在していると言われている*3ので、間違いなく、そういう「目立ってないんだけど実は重要なんだよ」って細菌が、何種類も、細々と暮らしているんじゃないかと思う。
 また、こういう細菌は、資源としても研究の価値があると思う。攪乱の少ない特殊な環境を得意とするのであれば、その戦略を徹底させるために、何らかの極端な適応メカニズムを持っているのではないかと考えられるからだ。冷たいところで長く生きる、エサが無くても長く生きる、高圧のところで長く生きる、そういう長所を伸ばす、しかも長い年月をかけた他の細菌との競争に負けないくらいに伸ばしているとすれば、他の細菌には無いような、何か面白い遺伝子を持っていてもおかしくない。そういう遺伝子の中に、何か人間の役に立つものも含まれているかもしれない。

 今は細菌の例で話をしたけど、「どこにでもいるけど少ししかいないやつ」というのは、プランクトンにもみられるし、魚とか虫とかにもいると思う。そして、そういう生き物には、絶滅の危機に瀕しているようなやつも多いと思う。この話は、細菌の世界だけの話ではなく、もっと大きな、生態学全体を見渡せる問いにもつながっているのではないか。そんなことを考えながら、今の研究の芽を伸ばしていきたいと思う。