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湖で微生物の研究してます

良い学術論文の書き方

Youtubeで面白い動画を見つけたので共有。


How to Write a Great Research Paper - YouTube

Microsoft ResearchのSimon Peyton Jones教授の授業の動画で、「良い学術論文の書き方」をレクチャーしている。

コンピューターサイエンスの研究が例になっているけど、他の分野でもポイントは変わらないと思う。ためになる内容なので、要点を整理してみた。

 

データを待つな、とにかく書き始めろ

論文を書くとき、

イデアを思いつく ⇒ 研究する ⇒ 論文執筆を始める 

という順をとりがちだけど、

イデアを思いつく ⇒ 論文執筆を始める ⇒ 書くために研究をやる

という順序をとるべし。論文執筆は、「研究成果の報告」ではなく「研究そのものである」という意識で取り組むべきだ。

 書き始められない理由として、「アイデアが熟成されてない」ことは言い訳にならない。書くことは「アイデアを熟成させる手段そのもの」であり、書くことなしにアイデアが完成することはない。どんなにくだらないと思っても、自分の中に明確なアイデアがあるなら書き始めるべし。

 

コアになる主張を明確化せよ

 論文の目的は、自分の考えを他人に「感染させる」ことだ。だから、できるだけ感染力の高い内容にする必要がある。そのために読者を引き付ける「つかみ」として、論文の主張を、1つの明確で結晶化されたメッセージにして見せるべきだ。メッセージは イントロに"The main idea of this paper is..." のように明示的に書いてしまったほうがよい。読み手に読み解かせる労力を割かせないことを最優先すべきだ。

 1論文でメッセージは最大1つまでだ。伝えたいメッセージが複数あるのなら、論文は分けるべきだ。

 

ストーリーを語れ

 読者の思考の流れを先読みし、「先が読みたくなる」ように論文を構成すべし。一般的には以下のような流れである。

 ・●●という問題がある

 ・この問題は重要である

 ・この問題はまだ解決していない

 ・そこで私はこう考えた (ここが論文の”主張”になる部分)

 ・その考えは実証された(研究データによる裏付け)

 ・先行研究と比較し、●●な知見が追加された。

 

イントロはとても重要

 とくにイントロダクションは重要である。100人の読者がイントロダクションを読み始めたとして、以降のパートまで読み進むのはせいぜい10人程度だ。「1行ごとに、読者がどんどん離れていく」ということを頭において、できるだけ読者の負担を軽くし「先を読ませる」文章にすることに注力すべきだ。

イントロで強調すべきは以下の2点だ。

1.研究課題を紹介する

2.自分の研究のコントリビューションを示す

1.研究課題を紹介する

 研究課題を説明する際は、誰もが知っている一般論ではなく、できるだけ具体的な記述にすることで、読者に「学び」を与える(=読む価値があると思わせる)ような内容にすべきだ。読者の離脱を少しでも抑えるために、単刀直入に本題へ入っていくべきである。

2.自分の研究のコントリビューションを示す

 イントロには「この論文を読めば何が分かるか」をあらかじめ書いておくべきだ。読者を「もしこれが本当に後ろに書かれているならすげぇ、読んでみたい!」という気持ちにさせることが重要だ。内容はできるだけ具体的で、反証可能な主張にすべきだ。箇条書きにしてもいい。一般論に逃げたり、論文の構成だけ示して中身を書かないのは、読者にとってメリットがないことなのでNGだ。

 ここに書く内容が、論文の主張の本体といって過言でない。以降の文章は、ここに書いた主張を裏付けるための内容として書き進めていくことになる。

 

比較研究は論文後半で触れるべし

 イントロで比較研究を語ると、読者の興味を惹きつける重要な段階である、上記「1.」「2.」の流れの間に、比較研究の話題が挟まることになり、読者が興味を失うきっかけを作ってしまう。比較研究の話題は、後段(ディスカッション)のパートで触れるべきだ。(ただこれについて動画内では「比較研究を先に持ってくる」方法が一般的であることを認めたうえで、一つの考え方として紹介されている)

 比較研究を取り上げるときは、自分の研究をよく見せるために、相手をけなすべきではない。褒めるのはたタダである。比較研究には敬意を払ってその重要性を紹介しながら取り上げ、互いの研究を尊重しあうような書き方にすべきだ。

 また、比較研究にあって自分の研究にない視点についても考察を加え、自分の研究の弱点についても認めるべきだ。

 

読者を最優先に考えよ

 自分にとっては当たり前のアイデアでも、それを初めて読む者にとって、新たな考えを理解するのは努力を要するものである。自分の考えを伝えるときは、できるだけ具体例を伴って上げ、初読の人が「直感的に」分かるようにすべきだ。一般化された記述は、読者に負荷を強いるのでNGである。

  また、自分が研究でたどってきた紆余曲折は論文内に決して書くべきではない。最終的に見つかった最短ルートだけを書くべきだ。読者は著者がどれだけ苦労したかには興味はない。

 

読者の意見を聞け

 原稿ができたら、できるだけ多くの人に読んでもらうべし。とくに「どこで読み詰まったか」という感想を聞くことが重要である。読み詰まったところがあったなら、その先に進んでもらうために要した説明を、論文に書き加える。

 また引用文献の著者(研究上のライバル)にも「あなたの文献をきちんと引用できているか見てほしい」という形で、原稿を読んでもらうことも考えうる。同分野の研究者で、しかも自分の論文を引用をしてもらっているとなれば、興味を持って読んでもらえるだろうし、クリティカルなコメントをもらえるはずである。彼らはレフェリーになる可能性も高いので、そこで受けたアドバイスは前面に出して反映させるべきである。(ただし動画内では、このやり方については、やりすぎると飽きられて「寄生者」として見られる可能性もあるのでほどほどに、という注意もなされている)

 さらに、投稿後にもらえる査読コメントは宝の山である。厳しいアドバイスが多いが、それ以上に重要なアドバイスである。査読者が割いてくれた時間に感謝し、敬意をもってそれに対応すべきである。

 

 

何度も見返したい内容だ。

 ちなみに動画を見るとわかるけど、この人、話し方も面白くて、プレゼン上手。そしてこのSimon Peyton Jones教授のHPに行けば、プレゼン資料一式が閲覧できるほか、これの口頭発表バージョンである「How to give a good research talk」というプレゼンも見ることができる。ぜひ実践したいですね。

research.microsoft.com