yokaのblog

湖で微生物の研究してます

9月琵琶湖その2

 琵琶湖に行ってました。先月から一変、ひたすら雨が降り続けたおかげで洗堰も久しぶりの全開放流で、湖の水もかなり入れ替わった模様。

 水温25.0℃、透明度は6.0mで秋の植物プランクトンの季節になってきた。最近調査・出張に行き過ぎて実験・論文が進んでいないのがストレスになっていて、気持ちがのらず、こなす感じの作業になってしまった。それでもボーっとしていると取り返しのつかないミスがあるから気が抜けない。疲れる。

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いつも船の移動時間は船室でパソコン作業をしているのだけど、ブタクサ花粉の猛攻もあって今日は心身消耗していたので、ボーっと秋の風にあたりながら帰還。

明日からまたしばらく雨の予報。良い日に行けてよかった。

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9月琵琶湖その1

今日は琵琶湖に行ってきた。琵琶湖に行く日はずっと晴れていたのだけど、今日は久しぶりの雨。

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雨の影響か表面水温はだいぶ下がって26.5℃。透明度も6.4mまで低下していた。

 船上濾過システムもかなり改良が進んできて、採水から20分で10L の水を処理できるようになった。サンプルはその場で氷漬けにして持って帰るので、鮮度もバッチリ。

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連日の調査でさすがに疲れた。そしてデスクワークがなかなか進まない。

 最近思うのは、フィールド調査ってかなり高い投資だなってこと。準備・片付け含めて全工程を通算すると、非常に時間と手間がかかっている。その時間があれば分析や論文書きがどれだけ進むかを考えると、失うものは結構大きい。なので、その投資を回収できる勝算があるのかどうかを本当に考えて、できるだけローコストハイリターンになるように調査に出なければならないと思う。確かに、現場にできるだけ出て観察事例を増やし、緻密なデータをとってこそ生態学だという意見も分かるし、採り逃しが怖いからできるだけたくさん採っておきたいという気持ちも分かる。それでもやっぱり、データ数を増やすことのメリットや、採り逃しが発生するリスクを冷静に評価して、それが調査に必要なコストを投資するに見合うのかどうかを計算しきる計画力が無ければダメだと思う。無限にリソースがある大金持ちなのであれば話は別だけれど、残念ながら、自分の時間も、税金から捻出される研究費も給料も、タダではない。その中で効率的にアウトプットを出すしかない。現場に行くことは楽しいし、生態学研究の本分なのだけど、機会損失と引き換えに来ているのだという意識は忘れないようにしなければならないと思う。

本栖湖・西湖調査

富士五湖本栖湖(水深121m)・西湖(水深71m)の深層の水を採りに調査に行ってきた。

年々きれいになっていく本栖湖、今回の透明度なんと20m↓

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透き通った湖は海の色ともまた違う、不思議な色をしていた↓

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続いて西湖へ。手漕ぎボートだったので最深地点にたどり着くだけでも汗だくになった↓f:id:yokazaki:20160910161152j:plain

深層からたっぷりと水を採ってきて、陸に戻ってきたらそのままサンプル処理。出張ラボの様子↓

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昨年の調査でこれらの湖の深層には面白い微生物がいそうなことが分かったので、今回はそいつらに焦点を絞り込んで、ピンポイントで大量採水をするのがミッション。なかなか行けない場所に自分で足を運んで、そこに出てくる生き物を調べて、レアなものを見つけて喜ぶっていうポケモンマスター的な仕事だ。

ISME@モントリオール

 カナダのモントリオールで開催された国際微生物生態学会(ISME)に参加してきた。街の中心部にあるカラフルでおしゃれな会議場で開催。

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 今回はラボからは自分一人の参加だったのだけど、1年ぶりに会った海外の研究者や、現地で会った日本人研究者と一緒に行動できた時間がけっこうとれたので、一人ぼっちになることもあまりなくてよかった。

 学会の中身にも大満足で、話したいと思っていた人とは一通り話すことができたし、自分の研究発表に対する好感触も得られた。そしてやっぱり、近い分野の人たちのまだ論文になっていない成果が見られるというのが最高に面白い。最近論文出てないなぁと思っていた人が裏で大仕事を進めていたことが分かったり、最近出たばかりの論文が次なる研究の布石であることが判明したり、有名研究室の新しい学生が面白い研究を始めていたりと、自分も頑張らなければと思うことがたくさんあった。

 近い分野だけではない。あらゆる微生物生態学者が集結するこの学会はポスター会場の全貌を把握しきれず、回りたいポスターの番号をメモしておいても時間が足りないくらい巨大な学会だ。淡水に限らず、海洋だったり、嫌気環境だったり、新手法の開発だったり、色々なテーマでセッションが組まれ、しかも各分野の大物がパラレルで講演をするので、どれを捨てるのか本当に迷ってしまう豪華なスケジュール。そして大物が勢ぞろいしていることで、

誰がトップを走っていて、どんなことが最先端で、次は何が解決すべき問題なのか

という情報が、ものすごく効率的に得られる。特に「誰が」という点がとても大事だということを今回感じた。やっぱり、研究は人ベースだ。同じ研究対象を扱っていても、研究の味付けの仕方は人によって違う。その味付けが自分の好みに合うかどうかというのももちろんあるけど、やっぱりその人が「何を疑問に思って研究をしているのか」ということが、その味付けの良しあしを決めているように思う。言い換えると「良い問いを立てられているか」ということだと思うのだけど、良い問いが立てられている研究者は、一連の研究が一つの壮大なストーリーに乗っているので話が分かりやすいし、追究の深さも半端ではない。なので、個々の論文に対して「こういう研究がある」という覚え方をするよりも、個々の研究者に対して「こういう研究をやっている人がいる」という覚え方をするほうが、効率的にトレンドを追えると思った。やっぱり、こういう大きな国際学会には定期的に参加して、誰が何をやっているのかを、その人を実際に目の前にして確認するというのは大切なことだ。

 ちなみに中日の前日の夜の懇親会は、研究者たちが爆音で踊り狂うという、日本では絶対に許されなさそうなチャラいパーティーだった。僕はこういうノリにはついていけないので、後ろからその様子を観察しているだけで満足だった。

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 そして中日は海外の研究者に誘われて植物園へ。見たことない植物が色々いて面白かったのだけど、一番面白かったのは葉っぱに穴が空いている植物。下の葉にも日光が当たるようにするための仕組みらしく、上の葉になるほど穴の大きさが大きくなっていくらしい。

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 学会終了後は、飛行機までに時間があったので、レンタルサイクルを借りて、慣れない右側通行でモントリオール市内をサイクリング。

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セントローレンス川を渡る橋。五大湖の流出河川という意味では瀬田川と同じ位置づけだけど、桁違いに大きかった。そしてそのでかさで意外に急流なのに驚いた。瀬田川とは全く別物。

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↑川と運河を隔てる中州のサイクリングロード。信じられないくらい長い距離の舗装された車のいない信号のない道。自転車が好きな人にとっては天国。

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↑最後は山登りもして、市内を一望できる場所へ。結局、かなりの距離を走った。こういうのは自分のペースでやりたいから、一人でないとなかなかできない。

 そして日本に戻る飛行機の中からはミシガン湖が見えた。これは北端の一部だけど、信じられないくらいでかい。このでかい湖の深層にも、琵琶湖で見つかったのと同じ系統の細菌が、びっしりと生息しております。すごすぎる。いつか水を採りにいきたい。

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 しかし、とても疲れた。気候も食事も言語も違う場所に一人で乗り込んで、心身ともにかなり消耗した。本当に一大イベントでした。

8月びわこ その2

 今日は今月二回目の琵琶湖。ここ最近台風や豪雨もなく、ずっと猛暑が続いていたので、あらゆるものが「真夏の琵琶湖の最強版」になっていた。

 まず船着き場についてすぐに目についたのがアオコ。水の動きが少ないと発生しやすいと言われているけど、ずっと雨が降ってないせいで、琵琶湖の水位も-36 cmまで下がっていて、南郷洗堰の放水量もずっと30トン以下。この夏、琵琶湖の水はほとんど動いていない。昨日見てきたけど、瀬田川までもアオコで緑の水になってしまっている状況だ。

f:id:yokazaki:20160818205311j:plain その一方で、北湖では水がますます透明になっている。少雨で川からの泥の粒子の流れ込みがないうえ、猛暑で温度躍層の発達が進んで、表層の栄養不足による植物プランクトンの減少がすすんでいるからだ。水深10 mまでが水温28℃以上、そこから水温が一気に下がって、水深20 mではもう13℃という状況。透明度は8.5 mで、採水器をおろしても外洋のように水が透き通っている。

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 そして水が透明になると現れるのが最小の植物プランクトンであるピコシアノバクテリアだ。5 mで採水した水を早速蛍光顕微鏡で見てみたのだけど、うじゃうじゃいた。

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ちなみに同じ視野でみた細菌がこれ↓f:id:yokazaki:20160818210519j:plain

 細菌が4.6×10^6 cells/mlに対して、ピコシアノバクテリアが3.0×10^5 cells/ml もいて、全細菌の6.5%を占めている計算。

 ピコシアノバクテリアが元気に増えているということは、それだけそれに感染するウイルスもたくさん発生しているはずだ。ということでウイルスを見てみると、これまた今までに見たことが無いくらいたくさんいた(弱く光っているやつも結構います)↓

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 現存量は1.2×10^8 particles/mlで、気のせいかもしれないけど、粒子の光り方もいつもより強くて、状態が良いものが多いような気がした。真夏の透明な水、面白い。透明ということは、大きな生き物や川から流れてきた泥の粒子が少ないということでしかない。小さな生物やウイルスの世界は、透明な水の中でむしろ活発に展開されている。今日採ったサンプルのシーケンスデータの解析が楽しみだ。

 そして最後は積乱雲の発生で急に波風強くなり、慌てて撤退。何から何まで真夏でした。

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 次の日曜日からは海外出張。カナダで行われるISMEで発表と情報収集してきます。すでに要旨が発表されているけど、僕が研究しているマニアックな細菌を研究している人がいることが判明して、しかも僕が研究している環境とは違う環境から見つかったという内容らしいので、どんな発見が発表されるのか、すごく楽しみだ。

水圏微生物研究フォーラム

「水圏微生物研究フォーラム」なる集会に参加するため、関東出張してました。

 水域の環境微生物の研究者のための集会で、昨夏に参加した国際学会のSAME (Symposium on Aquatic Microbial Ecology)の国内版という感じ。招待講演のメンバーを見た瞬間に「こんなん絶対おもろいわ」と思って即座に申し込みをしたのだけど、期待通りで、ポスター含め、一つたりとも聞き逃すわけにはいかない濃密な内容だった。あまりに面白いポスターばっかりだったので、時間外もずっとポスターを見て回っていたのだけど、それでもちゃんと聞けずに終わってしまったポスターがたくさんあって、もっとポスターの時間を伸ばしてほしいと思ったほどだ。

 自分のポスターを聞きに来てくれる人も近い分野の人が多いので、密な議論ができて、「この話で盛り上がれる日本人はみんなここにいるのでは?」というようなレベルのマニアックな会話もできたのはとても楽しかった。

 またよく言われることだけど、少人数の学会って、近い分野の研究者と密に議論できるというだけでなく、大規模学会ではなかなか話すタイミングが得られない、大御所の先生方と話すチャンスも結構あるというメリットもある。僕自身も今回、是非お話ししたいと思っていた研究者とお話しすることができて、とても満足だった。

 総じて、これまでに参加した国内の研究集会では1番良かったと言ってもいいくらいの満足度だったと思う。規模的にも、時間的にも、ちょうど良い内容だった。でかい学会で異分野の研究を見るのも楽しいし、業界のトレンドを追うのには良いのだけど、やっぱりこういう「狭くて深い」研究会のほうが、議論の質も、得られる人脈の質も上だと感じた。今後もこういうチャンスがあったら是非参加したい。

8月びわこ その1

今月は2回琵琶湖に行く予定なので、早速1回目を済ませてきた。

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穏やかな夏の朝・・・かと思ったけど、やっぱり日が昇ると暑い。9時の時点で気温は29.7℃、水温は28.1℃。透明度は7.9mまで伸びて、「溶存有機炭素(DOC)豊富、栄養塩(N・P)欠乏」の典型的な真夏の表層になってきた。

沖ではカモメが表層の魚を追いかけていた。今年の琵琶湖はアユが多いらしいので、おそらくアユの群れだと思う。その影響か、今年は水中のミジンコの数が去年に比べて遙かに少なく、去年は透明なボトルに水を汲むと泳いでいるのがたくさん見えたのに、今年はそんなに見つからない。南湖の水草も例年のように水面を覆いつくすほどではないし、烏丸半島のハスが突然消えたのもニュースになった。一方で外来植物のオオバナミズキンバイの黄色い花が去年にも増してそこら中の岸に生えているし、去年は見られなかった家の近所の瀬田川でも今年は大繁殖している。

1年単位でも、琵琶湖はどんどん変わっている。変化のスピードは人間社会とそんなに大差ないのではないかとも思ってしまう。こんな勢いで数百万年も続いている琵琶湖とその変化に順応して生息し続けている生物って本当にたくましい。